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「原資がない」「大切なのは給料じゃない」──賃上げを拒む企業が見て見ぬふりする“人への投資”という最強戦略河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)

倒産の原因は「従業員の退職」にあるのか、それとも「退職をとどめるための待遇改善に力が及ばなかった企業側」にあるのか──そんな議論を呼ぶ、調査結果が発表されました。この調査を読み進めるうちに、どうも腑(ふ)に落ちない感覚が残りました。

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著者:河合薫

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。


 退職する人が多いから会社が倒産したのか。会社が待遇を改善しない、あるいはできなかったから社員が辞め、その結果会社が倒産したのか──そんな議論を呼ぶ、帝国データバンクの調査が発表されました。

 調査のタイトルは「従業員『退職』で倒産、5年連続で増加 過去最多ペースで推移 『賃上げできず』倒産も発生」。以下、具体的な調査結果を抜粋します。

  • 2026年1〜7月に判明した人手不足による倒産のうち、従業員や経営幹部などの退職が直接・間接的に要因となった「従業員退職型」の倒産は合計83件
kk
「従業員退職型」倒産件数 推移(プレスリリースより引用)
  • 「従業員退職型」倒産を業種別にみると、最も多いのは「サービス業」(22件)で全体の26.5%
  • 建設業で発生した「従業員退職型」倒産は20件で、1〜7月の集計で初めて20件台に到達
  • 「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」によると、2社に1社が正社員不足を実感
  • 新しい人材を確保できない「採用難」と同等に、既存の従業員による「退職」も大きな経営リスクとなっている

 私自身、タイトルや調査結果の冒頭で「人手不足倒産」と書かれていても、最初は特に違和感を覚えませんでした。しかし読み進めるうちに、どうも腑(ふ)に落ちない感覚が残りました。

 記事内に並んでいたのは「賃上げ原資を確保できない」「ドライバーの賃上げを進められない」「待遇改善の遅れによる人材流出」といった、明確な企業側の問題です。

 これは単に従業員が辞めた「退職型」という話ではなく、従業員が離れていく「流出型」、あるいは企業側の課題に焦点を当てた「経営力不足型」と解釈した方がしっくりきます。

「従業員退職型」倒産が隠す、経営課題の本質

 確かに企業を取り巻く環境は過酷です。調査でも指摘されている通り、受注環境の激化や燃料費の高騰により「賃上げしたくてもできない」中小零細企業が、余力・体力を奪われているのが実態でしょう。

 だからこそ、問題の所在は明らかに「経営・構造の課題」にあります。それを「従業員退職型」とひとくくりに表現することは、暗に「辞めた側に責任がある」かのような錯覚を生み、経営課題の本質を覆い隠してしまうのではないでしょうか。

 以前、ある企業のトップを取材した際「従業員にアンケートしたらね、一番大切なのは良い仲間がいることだって。給料じゃないんだよ。だから賃上げしないの」と笑顔で言われ、固まったことを思い出しました。

 働く人は労働力を提供する対価として賃金を得るわけですから、そこに不均衡が生じれば、良い条件の会社に移る人が増えるのは自然なこと。私たちは会社に労働力を提供しているのであって、人格を提供しているわけではない。労使とはあくまでも対等な関係です。

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