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「DXでかえって手間が増えた」現場は絶望 アート引越、年2400時間の業務削減への逆転劇(1/2 ページ)

引っ越しの現場で長年続いてきた「目視による荷物の検品」。アート引越センターはこの作業をRFIDを活用して効率化している。試行錯誤を経て実現した、現場起点のDXに迫る。

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 「〇〇さん、1番」「〇〇さん、2番」――引っ越し荷物に貼ったシールに記載された番号を、スタッフが一つ一つ読み上げ、別のスタッフがリストにチェックを入れる。1顧客当たり平均30点、多ければ100点を超える荷物を人が目視で確認し、トラックへの積み込みや荷下ろしのたびに、この作業を繰り返す。番号の読み間違いや聞き間違い一つが誤配送に直結する、気の抜けない作業だ。

 現場の努力と労力に依存してきたこの作業を効率化すべく、アート引越センターはDXプロジェクトを立ち上げた。しかし、プロジェクトは一度中断することになる。

 「作業を効率化するためにシステムを作ったのですが、それが現場に新たな手間を生んでしまいました」

 そう話すのは、経営企画室 主任の池田大志氏だ。その後、同社はプロジェクトを仕切り直し、新たにRFID(無線自動識別)タグを使って複数の荷物を一括検品する「ART RFID Evolutionシステム」を開発。テストを経て、2025年10月から本格的に活用を開始した。

 このシステムによって年間の誤配送を約8割減らし、その対応にかかっていた年間約2400時間を削減する見込みだという。

 当初の挫折から、どのように本格導入までこぎつけたのか。そして「人の手」が欠かせない引っ越しを担う中で、アート引越センターがDXに取り組む理由はどこにあるのか。

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左から、アート引越センター 経営推進部 経営企画室 主任 池田大志氏、同部 部長 小野山貴浩氏(提供:アート引越センター)

引っ越し荷物の目視チェック、RFIDでデータ化

 ART RFID Evolutionシステムは、主に荷物の少ない単身者の長距離引っ越しで使われる。1台のトラックに複数の顧客の荷物を混載する際、どの荷物が誰のものかを管理するシステムだ。これにより、異なる顧客の荷物の取り違えや、積み忘れなどを防ぐ。

 スタッフが預かる荷物1点ごとにICチップ内蔵のシール型RFIDタグを貼付し、リーダーでタグを読み取る。読み取った荷物のデータに対し、専用のスマートフォンアプリで「段ボール」や「冷蔵庫」などの品目を登録。RFIDタグと荷物の情報をひも付けることで、荷物リストを作成できる。

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ダンボール箱などの荷物にシール型のRFIDタグを貼付。RFIDリーダーで情報をスキャンする(提供:アート引越センター)

 トラックへの積み込み時や荷下ろし時には、専用のRFIDリーダーでタグを読み取り、荷物の過不足がないかを確認する「検品作業」を実施する。

 バーコードのように荷物を1点ずつスキャンする必要がなく、積み上げられた荷物の周囲をリーダーを持って1周するだけで、例えば30点の荷物を一括で読み取り、点数と品目を確認できるため、現場での確認作業を効率化しながら、より正確な管理を実現している。

 システム導入以前の検品作業では、顧客の名前と番号を印字したシールを荷物1点ずつに貼り、手書きで管理リストを作成していた。トラックへの積み込みや積み替えのたびに、スタッフがシールの番号を目視で確認する方法だ。池田氏は「正直なところ、以前はマンパワーで解決していました」と振り返る。

 人の目と耳に頼る以上、数字を聞き間違えたり、別の顧客の荷物を取り違えたりといった可能性を完全にゼロにすることは難しい。

 ART RFID Evolutionシステムの開発につながるアイデアが生まれたのは、2019年ごろだった。当時、小売業界などではRFIDを活用した無人レジが注目を集めていた。展示会でRFID技術を目にした経営企画の担当者が「荷物の番号を読み上げて確認する作業にも使えるのではないか」と考えたことから、プロジェクトが始まった。

「効率化」したはずが、手間が増えた 浮き彫りになった現場とのギャップ

 しかし、最初に始動したプロジェクトでは、想定した効果を十分に得られなかった。当時はRFIDタグに使うICチップの価格が高く、預かる荷物の全てにタグを付けるにはコスト面でのハードルがあった。そこで同社は、より低コストで導入できるQRコードを使って個々の荷物を検品する方法を採用した。

 だが、実際にシステムを導入してみると、現場からは思わぬ反応が返ってきた。効率化を目指して導入したシステムが、かえって現場の作業負担を増やしてしまったのだ。

 「システム上の管理はしやすくなりました。一方で、現場の作業負担はむしろ増えてしまった。このままでは定着しにくいと考え、仕切り直すことにしました」(池田氏)

 従来は荷物に貼られたシールの文字を目視で確認し、読み上げるだけでよかった。一方でQRコードを導入すると、新たに「スマートフォンを手に取り、1点ずつ読み取る」という工程が加わることになってしまったのだ。

 効率化を目指したプロジェクトが、なぜかえって手間を増やす結果になってしまったのか。経営推進部 部長の小野山貴浩氏は「費用を抑えてシステム化する方法を考えるうちに、システムを形にすることが目的になってしまっていました」と振り返る。

 また、池田氏も「企画する側と実際に使う側との間には、想像していた以上のギャップがありました。失敗を通じてそれに気付けたことは、その後の開発を考える上で大きな経験になりました」と語る。

 そこでプロジェクト再開時は、体制から見直した。ポイントは、開発側だけでなく、サービス改善や現場教育を担う部署、そして実際に作業するスタッフを巻き込んだことだ。

 当初のシステム構築時は、長距離輸送や協力会社との窓口を担う業務部と外部の開発会社を中心にプロジェクトを進めていた。一方、再開時には、顧客の声をサービス改善につなげるCS推進部も加わった。さらに、実際に引っ越し作業を担うスタッフからも意見を聞いた。

 「今、実際に引っ越しを担当しているスタッフの意見を聞きながら、現場にとって使いやすいアプリのUIや運用フローを構築していきました」(池田氏)

 また、当初はコスト上導入が難しかったRFIDタグだが、技術の進化により価格が以前より下がったため、QRコードではなくRFIDタグを採用できた。

 これにより、積み上げられた荷物の周りを、リーダーを持って1周すれば、荷物の点数と種類が分かるように。別の顧客の荷物が紛れ込んでいた場合には、アプリ画面と音でスタッフに知らせる。

 システムの本格導入時には、各支店でリーダー的な立場にあるスタッフを集め、システムを導入する意味や使い方を伝える研修を実施した。研修を受けたスタッフが各支店に戻り、周囲のスタッフに使い方を広げたという。

 このように同社では、仕組みを作るだけではなく、現場に根付かせることも重視している。

 「よく、DX担当者が『DXのDは、デジタルのDではなく泥くさいのDだ』と言うのを聞きますが、本当にその通りだと思います。当たり前のツールとして定着するまで、根気強くフォローしていきます」(小野山氏)

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