「下積み20年やれと?」──生成AI活用、若手が投げかけた問い 社長の答えは?:三菱マテリアルITソリューションズ 板野則弘社長が語る(1/2 ページ)
「今から僕たち若者に、下積みを10年20年やれっていうことですか」──三菱マテリアルITソリューションズ社長の板野則弘氏は、年次の浅い社員からこう問いかけられたという。AI活用が“当たり前”の若手世代。人材育成について、企業がどのように考えるべきなのか。
「今から僕たち若者に、下積みを10年20年やれっていうことですか」
三菱マテリアルのグループ会社で、IT事業を手掛ける三菱マテリアルITソリューションズ社長の板野則弘氏は、部下が抱えている「AIにまつわる業務上の課題」を聞く面談で、年次の浅い社員からこう問いかけられたという。
生成AIが出したアウトプットをうのみにせず、自分で見極める力を持つ必要があると伝えたときに返ってきた言葉だった。
AIのない時代に時間をかけて経験を積み、判断力を培ってきたベテランと、最初からAIが手元にあり「下積み」の経験がない今の若手。両者のスタート地点は全く異なる。
板野氏は、若手の切実な問いかけを受け止め「AI人材を育てる」こと自体を目的化してしまうのは危険だと指摘する。
AI時代、人材育成やDXはどう進めるべきなのか。
本記事はアサナジャパン主催カンファレンス「ワークイノベーションジャパン」(8月26日開催)の板野氏による講演「AIエージェント時代における『人中心の』日本の勝ち筋」を基に構成。
毎回AIに頼ってしまい、スキルが何も身に付いていない 若手の不安
板野氏は三菱ケミカル出身。1990年代に米シリコンバレー駐在を経験し、その後情報システムの世界に転じて26年目になるという。2026年4月から現職に就いた。
部下との面談では、他にもこんな悩みを若手から聞いたという。
生成AIを使い倒すことで同期より仕事が速いと自負する若手社員が、同じような作業を繰り返すたびに毎回生成AIに頼ってしまい、自分自身に何もスキルが身に付いていないのではないかと不安を口にしたという。
板野氏は「車の運転でナビばかりに頼っていると道を覚えなくなる」と例える。
かといって、今の若手に10年20年かけて下積みさせるのは現実的ではない。
「生成AI時代の人の育て方は、今まで通りではダメだと思う。もっと早く、もっと広く、もっと深く業務を経験させる。AIをコピペして使うのではなく、人が壁打ちの相手になるべき」
「AI人材の育成」自体を目的にしてしまうと、IT導入そのものが目的化してしまうのと同じ過ちが起こりかねないとも指摘する。
事業会社にはさまざまな要素技術を持った人材が集まっている。その競争力の源泉がどの技術にあるのかを見極めた上で、生成AIを使うことが本来の目的にかなうと板野氏は強調する。
効率化の先に「気付き」を生む DX戦略の本質
生成AIの活用では、個人の業務効率化が先行しているが、それを組織の成果にどう結び付けるかが大切だと板野氏は指摘する。
デジタル化や生成AIがもたらす効果は「効率化ではなくて可視化」だと板野氏は話す。そこから生まれる新たな発見を「気付きの種」と呼ぶ。
「デジタル化の推進と可視化された気付きの種に対する一人一人の創造性の発揮が、私は DX戦略の本質だと考える」
例として、板野氏は日本酒「獺祭」などで知られる旭酒造(現社名:獺祭)の取り組みを挙げる。デジタル化によって品質を安定させる一方、製造スタッフを増やし、ITで可視化した工程に対して人が対応する。デジタル化を人員削減だけに結び付けず、人がより良いものを作るために使っている。
スーパーマーケットの事例も挙げる。AIによる自動発注で約9割の商品を自動化した一方、残る約2%は人の意思による発注としたところ、この2%が売り上げの2割、利益の3割を生み出すきっかけになったという。
日々の発注業務を効率化したことで、人が「何を売りたいか」を考える時間が生まれた。「デジタル化をすればするほど、人の力が必要になってくる」という担当者の言葉が、板野氏には強く印象に残ったという。
「ポイントは人中心。 どんなにテクノロジーがあったとしても、やはり人中心で考えないと効果はない。全てのテクノロジーは人を幸せにするものでなければ何の意味もない。 ここは肝に銘じてやるべきじゃないか」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
