「1台数千万円」の機器を全て“丸見え”に 島津製作所が作った「理想的なラボ」、潜入して分かった工夫と狙い(1/3 ページ)
島津製作所が、1台数百万〜数千万円以上する計測機器を集めた研究施設を開設している。「理想的なラボ」を目指したといい、ガラス張りで公開している。その狙いとは。
1台数百万〜数千万円以上する計測機器がずらりと並び、研究員がPCに向き合っている――ここは、精密機器メーカーの島津製作所が神奈川県川崎市に開設した研究施設「Shimadzu Tokyo Innovation Plaza」だ。
施設の案内役を務める同社の西尾徹氏(分析計測事業部 Solution COE 殿町総務グループ シニアエキスパート)は「理想的なラボを目指し、実際に良い環境を構築できています。何も隠さず見せられるラボを目指して、全て見せています」と説明する。
島津製作所の創業は1875年(明治8年)にさかのぼる。京都の仏具商を家業にしていたが、明治維新後に仏具の注文が急減。産業の転換期を予見した創業者が、教育用の理化学機器を製造したのが始まりだ。その後は「蓄電池の国産化」「日本初の医療用X線装置」など数々の実績を残してきた。2002年には、同社の田中耕一氏が「ノーベル化学賞」を受賞したことで大きな注目を集めた。
2025年度通期の売上高は5607億円、営業利益は737億円で過去最高を記録。物質を分析・計測する機器の事業が、6期連続で過去最高の売上高を達成し、業績をけん引している。その計測機器のショーケースがShimadzu Tokyo Innovation Plazaであり、京都府に本社を置く同社は「関東における技術開発、顧客支援、社外連携の拠点」と位置付けている。
島津製作所が作った「理想的なラボ」とはどのような場所なのか。ガラス張りにして全てを見せる狙いとは。同施設をのぞくと、島津製作所という企業の“強み”が見えてきた。
「理想的なラボ」に潜入 「1台数千万円」の機器を“丸見え”にする狙い
島津製作所がShimadzu Tokyo Innovation Plazaを開設したのは2022年。同社が手掛ける計測機器を150〜160台集めている。同施設で働く従業員は約100人で、その約8割が、計測機器を使ってデータ収集やレポート作成に当たる研究員だ。施設を造った狙いは3つある。
1つ目は「先端分析手法の開発」だ。同社は、最先端の計測機器を開発してから、その活用方法を探る方式を採っている。「Aという用途に合わせて機器を開発する」という順番ではなく「この機器をこう使えば用途Aに対応できる、こう使えば用途Bに適用できる」と活用方法を検討するイメージだ。顧客の要望や社会課題に合わせて分析手法を編み出す上で、顧客がアクセスしやすい川崎市が好立地だったという。
2つ目は「顧客の技術サポート」だ。同社製品を購入する前の見学やデモンストレーションに役立てる。営業支援の一環として「機器の購入予算を獲得するためのデータ取り」「競合する計測機器メーカーと比較するためのテスト分析」なども実施している。
3つ目は「社外連携」だ。Shimadzu Tokyo Innovation Plazaは、羽田空港の対岸にある川崎市の都市開発プロジェクト「殿町国際戦略拠点」(キングスカイフロント)の一角にある。国立医薬品食品衛生研究所や花王、日東紡績、東京科学大学などライフサイエンス(生命科学)分野の研究機関や企業など、約80の組織が集まっており、ここで共同研究や国内外の顧客との連携などに力を入れている。
「もともと関東のラボは神奈川県秦野市にあったのですが、アクセスが不便で、埼玉県のお客さまなどは『京都の本社に行った方が早い』という状況でした。旧ラボが古くなったため、キングスカイフロントに入居しました。羽田空港に近いので、北海道や九州の方は『便利になった』と話しています」(西尾氏)
「理想的なラボ」を作り上げるための工夫とこだわり
同施設は4階建てで、4階には会議やイベントホールがある。3階は、オフィスとラボに分かれている。ラボ側は、環境分析を軸とする「Green Science Lab.」で、約35台の「ガスクロマトグラフ」(GC)を設置している。同装置は、化合物が混ざった気体や液体を気化させたものを分析し、化合物ごとに分離・測定できる。例えば、日本酒を製造する獺祭(山口県岩国市)が導入している。
約35台のガスクロマトグラフは、機器の組み合わせや構成がそれぞれ異なり、全く同じ仕様のものは置いていないという。西尾氏は「分析するサンプルを顧客から受け取った後、部品の交換などをせずに済むように、さまざまな装置を待機させています」と述べる。
ガラス張りの室内に計測機器が並んでいる様子は、一見すると「自社製品のショーケース」のようだ。しかし、実際に使う研究室として「理想的なラボ」にするため、配線を隠したり動線を妨げない配置にしたりといった工夫が詰まっている。
「最大のポイントが『空調』です。ガスや蒸気を室外に排出する排気設備を稼働させると、ラボ内の気圧が下がって『ドアが開かない』『結露する』などのトラブルが生じます。排気設備メーカーは排気だけを考えていて、建物の建設会社は排気のことを考えていないため、丁寧に設計しないと大変なことになります。当社のラボは、排気分と同じ量の空気を送り込むことで、気圧の問題を解決しました」(西尾氏)
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