「定年後も働いて」ラブコールの裏で、シニア労災が過去最多 安易な「人手不足の穴埋め」の代償:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)
これまで私は、幾度となく「中高年を使わないでどうする?」「暗黙知を侮るな!」と警鐘を鳴らし続けてきました。帝国データバンクが公表した調査結果から、シニア世代が置かれている辛い現状を読み解きます。
中高年を使わないでどうする?
暗黙知を侮ることなかれ!
これまで私は、幾度となくこう繰り返してきました。「エイジズム(年齢差別)という偏見を捨て、一人一人を見てほしい」「目の前に眠る、構造的資産であるベテラン人材をリストラすることは経営ではない」と警鐘を鳴らし続けたのです。
だからこそ、先日帝国データバンクが公表した調査結果には感慨深いものがありました。
全国1289社を対象に、従業員に活躍してほしいと思う年齢(以下、活躍年齢)を聞いたところ、平均は「67.9歳」で、中央値は「70歳」でした。実際の現場で働く従業員の最高齢の平均は68.3歳で、個別企業の最高齢は「91歳」と、働く人たちの表情を想像するだけでうれしくなるものでした。
さらに、企業からは「働ける方は健康であれば75歳までは働いてほしい」「人生100年時代に、70歳ぐらいまでは活躍してほしい」といった声も聞かれたそうです。
実は、私の周りのシニアたちにもある変化が起きていました。数年前までは「起業することにしました!」「転職が決まりました!」「大学院に行くにはどうしたらいいですか?」といった報告や相談が多かったのに、そういった華々しいキャリアチェンジをする人が最近はめっきり減ってしまったのです。
逆に増えたのが「来年定年です。賃金が下がるのは納得できないけれど、雇用延長します」「○月で定年です。関連会社に行くことになりました」といった、会社にとどまる決断をした報告です。しかも「消極的な居座り」ではなく、社内の小さなチャンスを目指して、学び、チャレンジして「自分のキャリアを発展させたい」と願う人たちが増えているです。
長寿化によって「教育→仕事→引退」という従来の3ステージの人生から「教育」と「仕事」と「引退」の間に「再学習」「探求」「休暇」といったステージを複数回挟む、マルチステージの人生の働き方への転換が求められる時代に突入しました。今や「50歳だから役職を後進に譲る」「60歳だから第一線を退き、閑職に回る」といった、ステレオタイプのエイジズムは意味を持たないことを、シニアは皆分かっています。
そもそも世間では「働かないおじさん」などとシニア社員を嘲笑する風潮があります。ですが、1000人以上のビジネスパーソンの声に耳を傾けてきた私から言わせれば「働かないおじさん」など一人もいませんでした。人生に意味を求め、他者に認められたいという基本的欲求が人間には存在するからでしょう。
実際に、米マサチューセツ州には、高齢者を積極的に雇用して10年間で3倍まで生産性を上げ、世界的に有名になったVita Needle(ヴァイタニードル社)があります。超高齢社会の日本として、企業とシニアが互いに本気で価値を生み出し合える関係になることを願うばかりです。
既存の人材を活用していくしかない……調査結果から聞こえる切実な声
一方で、件の調査結果を、労働構造の観点から読み解くと、企業規模や業界による切実なグラデーションが見えてきました。
期待する「活躍年齢」を企業規模別で見ると、小規模企業では「68.3歳」、中小企業は「68.1歳」、大企業は「66.8歳」となりました。企業規模が大きくなるほど活躍年齢が下がっていました。
さらに、調査に寄せられた現場の声はあからさまでした。
「中小企業には新しい人材が入りにくく、既存の人材を活用していくしかない」(鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売、長野県)
「求人を出しても応募がない。資格や経験が必要な業務であり、若手を育てるためにも長く勤めてほしい」(メンテナンス・警備)
「正社員不足で、若手がおらず、技術の伝承が芳しくない」(機械・器具卸売、愛知県)
「人員確保に苦慮しており経験者にいてもらう方が安心」(建設、岩手県)
というように、人手不足のため、既存社員に長く働いてほしいとのコメントが多数あったそうです。
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