「定年後も働いて」ラブコールの裏で、シニア労災が過去最多 安易な「人手不足の穴埋め」の代償:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
これまで私は、幾度となく「中高年を使わないでどうする?」「暗黙知を侮るな!」と警鐘を鳴らし続けてきました。帝国データバンクが公表した調査結果から、シニア世代が置かれている辛い現状を読み解きます。
「若くて頑丈な社員がバリバリ働く」やり方をいつまで続けるのか
国は2026年4月、労災防止を企業の努力義務とする「改正労働安全衛生法」を施行しました。ですが、現場の悲鳴を解決するほどの拘束力があるとは到底思えません。
本来であれば、人口動態が変わり、社内の年齢構成が大きく変化した時点で、組織の働き方や安全設計の「スタンダード」も時代に合わせてブラッシュアップされなければなりません。しかし多くの日本企業は、いまだに高度経済成長期の「若くて頑丈な社員がバリバリ働く」前提の体制や意識のまま走り続けています。
若手社員の離職を防ぐためには細心の配慮を払う一方で、長年会社を支えてきたベテラン社員に対しては「無理」と言える環境すら与えず、これまでと同じ負荷をかけ続ける。そのひずみが「中高年の労災急増」という悲惨な形で顕発しているのだとしたら、これほど痛ましく、かつ企業の怠慢といえる事態はありません。
人が生き生きと働き続けるために不可欠なのは「適切なソーシャル・ロール(社会的役割)の保持」と「能力発揮の機会」です。
ベテラン人材が長年培ってきた最大の資産は、マニュアル化できない判断力や人間関係、いわゆる「暗黙知」(Tacit Knowledge)です。彼らを「単純作業の穴埋め役」として使うのは、社会的な知的資源の著しい浪費になりかねません。
企業は「年齢」で人を見るのではなく、働く人の一人一人を見る「人の顔のある経営」を徹底する。それができない企業は、淘汰(とうた)される運命にあるということをお忘れなく。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)、『働かないニッポン』 (日経プレミアシリーズ) 、『伝えてスッキリ! 魔法の言葉』(きずな出版)など。
新刊『「老害」と呼ばれたくない私たち 大人が尊重されない時代のミドル社員の新しい働き方』(日経BP 日本経済新聞出版)発売中。
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