なぜ高収入の“超エリート集団”は一線を越えたのか プルデンシャル不祥事の深層:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
プルデンシャル生命の不祥事を受け、成果主義の弊害やガバナンス不全といった「制度」の問題について多く議論されている。しかし、どれほど厳格な仕組みを整えても、それを動かすのは人間だ。本記事では、同社の事例を手掛かりに、エリート集団が陥りがちな「心の動き」に着目する。
「弱音を吐く=敗北」という空気感はないか
さらに悲劇的なのは、成績が落ち込んだときに生まれる「ダメな自分」への強い自己嫌悪です。「高潔なプロ」であることをたたき込まれた人間にとって、成果が出ない現実は単なる業績の低下ではなく「人としての全否定」のように感じられます。しかし「弱音を吐く=敗北」という文化の中では、誰にもSOSを出せません。
ここで重要になるのが「ヘルプシーキング」(Help-seeking:助けを求める行動)という概念です。ヘルプシーキングとは、自分が抱える問題や過度なストレス、能力の限界に直面した際、自力で解決しようと抱え込まず、適切なタイミングで他者(上司や同僚、専門家など)に支援や助言を求める行動やスキルのことです。ヘルプシーキングは、もともと心理学や公衆衛生学の分野で使われてきた用語で、日本では「援助要請」や「援助希求行動」と訳されます。
従来、ビジネスの現場では「自力でやり切る=自立したプロ」「人に頼る=甘えや弱さ」と捉えられがちでした。しかし、ヘルプシーキングは真逆の意味を持ちます。WHO(世界保健機関)の「職場のメンタルヘルス対策ガイドライン」などでも、ヘルプシーキングは危機的な状況や孤立を防ぐための最も重要な「社会的行動」として位置付けられています。
限界を迎える前に正しくSOSを発信することは、強いプレッシャーの中でも冷静さを保ち、適切に対処するための「極めて高度な危機管理スキル」です。個人の暴走や不正、メンタル不調を防ぐためにも、安心して助けを求められる仕組みが欠かせません。
エリート集団に潜む「SOSを出せない」病
しかし、プロ意識が強く、エリート意識を持つ集団では、SOSを発信すること自体が難しくなる場合があります。「これまで手にした高収入、高い地位、そして誇りから絶対に落ちたくない」という執着と恐怖があるからです。
近年、心理的安全性が注目されていますが、ヘルプシーキングには、個人の心の中での葛藤も伴います。そのため「何を言っても責められない環境(=心理的安全性)」を用意するだけで解決するわけではありません。
自ら助けを拒み、問題を1人で抱え込むうちに、人は静かに追い詰められていくのです。
その先にあるのが、イソップ童話の「すっぱいぶどう」です。お腹を空かせたキツネが、手に届かないぶどうを「どうせあのぶどうは酸っぱくてまずいに違いない」と思い込むことで、自分の心を守ろうとするお話です。
あのキツネと同じように、人間には追い詰められると自分の都合の良いように意味を書き換え、正当化する心理があります。「これは顧客のためだ」「会社が守ってくれないから自分で自分を守るのだ」と認知をすり替えることで、罪悪感をまひさせていくのです。
人がうそをつくのは、他人に対してだけではありません。自分自身にも「自分を守るために」うそをついてしまうのです。
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