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熊本地震「避難状況マップ」秘話 2日で開発も「こんなの使えない」と突き返され……(2/2 ページ)

令和8年熊本地震の発災から2日後、IT企業が“避難状況マップ”を開発した。しかし現場からは「こんなものは使えない」と言われてしまう。この状況をどう打開したのか。

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災対本部の廊下で困りごとを拾っては試作「1日に10〜20回」

 現場に必要なダッシュボードとは何か。状況を把握するため、発災から約1週間後にunerryの営業担当者が、当てもなく現地に入った。

 そこで目にしたのは、災害対策本部が抱える課題だった。令和8年熊本地震が起きたのは、7月28日。真夏の被災地で、避難所以外の場所で車中泊を続ける人の熱中症を警戒していた。

 避難所から大量の報告が届くものの、状況をリアルタイムに観測する手段がなく「医療チームの出動先はどこか」を迅速に判断するための材料が求められていた。防災科研の研究者からは「インフォメーション(情報)をインテリジェンス(知見)に変える必要がある」と助言を受けた。

 unerryの営業担当者は、会議を終えて廊下に出てくる対策本部の担当者や、災害派遣医療チーム(DMAT)の隊員に、状況と困りごとを聞いて回った。小野氏は「『こんなことに困っている』とポロッと言われたら、とにかく実現して当ててみる。『これなら使えますか』『駄目ですか』というのを1日に10回、20回とやっていた」と振り返る。

 要素をそぎ落とした末に行き着いたのが「夜間滞留ダッシュボード」だ。熊本県全域を125メートル四方の区画に分け、発災前の8日間には一度もなかった規模の「人の滞留」が起きている場所を赤く示す。開設中の避難所と重ね、避難所の外の滞留に絞った。数値はスマートフォンの端末数で、実際の人数ではない。7月30日から毎日更新し、8月31日時点で33日連続となった。

 ダッシュボード画面には、医療チームが「どこに行けばよいか」だけを赤い点で示した。ダッシュボードを基にした出動により、熱中症の疑いがある人が何人も病院に搬送されたという。その後は、名簿と実態がずれやすい避難所ごとの滞在状況も可視化した。

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普段の夜との差を地図に落とし込んだ「平常比の変化モード」(出所:小野氏の講演資料)

 8月22日にはデジタル庁のチームと、赤外線カメラを積んだドローンで車中泊の車両を確かめる実証を実施。人が現地に行かなくても実態をつかめることを示した。

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人流データとドローンを組み合わせた避難状況把握の流れ(出所:小野氏の講演資料)

ダッシュボード作成にAI活用 “役立つツール”作りで人間の役割は?

 ダッシュボード開発に携わったunerryのチームは、データサイエンティスト2人、営業2人、統括する小野氏の5人で構成されていた。エンジニアではなく営業が最前線に立った理由を、小野氏は「AIだ」と言い切る。ダッシュボードは1行もコードを手書きせず、全てAIで作ったという。

 ただし、AIだけでは足りなかった。小野氏は「AIは賢いから、おせっかいで、あれもこれも付けてくれる。だが災害対策の現場では、どこに行けばよいのかだけ分かればよかった。顧客ニーズのすり合わせは、人間がコミュニケーションを取りにいくほうがうまくいく」と述べる。

 小野氏によると、現地に入った営業担当者はコミュニケーション力とやり抜く力が突出していた。一方、知識や論理的思考力は後方のメンバーが補ったという。全てを備えた個人はいない。チームで補い合える組織が強いということだろう。

 災害対策本部の内側に入り込んで課題を聞き出し、チームでダッシュボードを改善する。AIによって開発スピードが加速する現在、エンジニアやIT企業に求められるのは事前の要件に沿った開発支援や導入支援ではなく、相手の課題を見つけて解決まで伴走する姿勢なのかもしれない。

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