AI活用で「年3万5000時間削減」の江戸川区 「配って終わり」にさせないコツは? 5年で培った実践知を聞く(1/3 ページ)
江戸川区がAI活用によって年3万5000時間の削減に成功した。約5年でさまざまな活用事例を蓄積。「ツールを配って終わり」にさせない導入のポイントとは。
AI活用に全力を注いでいる自治体がある。江戸川区だ。職員向け生成AIツールはもちろん、窓口対応や災害対策にもAIを導入。同区は、年3万5000時間の業務削減の効果があったと試算している。
同区が行動を起こしたのは“生成AIブーム”前の2021年。そこから、AIの活用領域を広げてきた。「ツールやAIを渡せばそれで良いということではい」――江戸川区の渡辺良光課長(経営企画部DX推進課 課長)は、AI活用で成果を出すポイントについてこう話す。
江戸川区は、いかにAI活用を軌道に乗せているのか。2021年から2026年まで約5年間で蓄積した、AI活用の事例とノウハウについて渡辺氏が語った。
本記事はアイスマイリーが8月26〜27日に開催した「AI博覧会 Summer 2026」のセッション「AIで変える・変わる行政の現場〜江戸川区のAX取組事例」を基に構成。
2021年にAI利用開始→2026年に「AI活用の憲法的な規定」策定
江戸川区がAIを最初に導入したのは2021年4月。AIによる議事録作成から始まった。2022年1月には、児童相談所に相談支援のAIシステムを導入。その後、火災の煙を検出するAIシステムを取り入れるなど、AIの適用先を広げていった。
生成AIは、2023年7月に庁内での利用を開始。2024年2月には区公式Webサイトに生成AIを組み込んだ検索サービスを導入した。
2026年にはAI活用をさらに進める方針を明確にし、3月に生成AIツールを試験導入、4月に「江戸川区のAI活用に関する基本方針」を策定・公表した。基本方針では、AIを積極的に活用する一方で、区民への説明責任や導入時の透明性を確保する考え方を示している。渡辺氏は、同方針の位置付けを「本区におけるAI活用の憲法的な規定」と説明する。
職員向けには、既存の生成AI利用ルールや利活用ガイドラインを整理し直して「AI導入・活用ガイドライン」を策定した。具体的な利用方法については別途ルールを定めている。
年間3万5000時間を削減 仕事はどう変わった?
江戸川区では、複数の生成AIツールを用途に応じて使い分けている。文書作成や要約、アイデア出しなどに活用しており、特定の業務に携わる職員を対象にしたツールもある。
AI導入の効果について、渡辺氏は生成AIの利用状況を基に試算した数字を紹介した。
研修を受けて生成AIを利用した職員は1271人。年間の削減時間は3万5494時間で、東京都の最低賃金を基準にすると約4351万円の削減効果に相当するという。ROI(投資収益率)は1136%と試算した。
渡辺氏は、生成AIによって仕事の進め方が変わってきたと話す。
「まずはAIにある程度ベースを考えてもらい、そこから職員が実情や考えを反映させて完成させていく。そうした仕事のやり方に変わってきた」
窓口業務の「心理的な負担」を低減
AIの効果は、時間削減にとどまらない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「情シスすごろく」に自治体版 「チャットアプリ移行したのに転記作業」など“あるある”収録、制作のきっかけは
HENNGEが「情シスすごろく自治体版」を制作した。首長との調整、急な法改正など自治体職員のリアルな悩みを収録している。
“純国産の政府AI”稼働へ NTTらのモデル採用 「先陣を切る」――松本デジ相が語った意欲
デジタル庁の政府AI「源内」で、国産AIモデルと国産クラウドを活用した“純国産の政府AI”が稼働する。松本大臣は「先陣を切る取り組みになる」と述べた。
ガバメントAI「源内」は自治体で本当に使えるのか? クラウド依存による“3つの落とし穴”
デジタル庁が公開したガバメントAI「源内」(GENAI)は、政府によるAIプラットフォームの公開という点で画期的な取り組みだ。一方で、自治体での実運用を考える上で無視できない論点も見えてくると、CIO補佐官として自治体DXに携わる筆者が解説する。
千代田区、生成AI全庁展開で「年間4000時間」を削減 次の一歩は「打倒・美しい紙の資料」、そのワケは?
千代田区は生成AIの全庁展開に着手し、年間で4000時間の業務削減を実現するという成果をあげている。同区のデジタル政策課 デジタル政策係長 岡本翼氏が、自治体における生成AI活用の現状と今後について語った。
「AI駆動型国家」の落とし穴 「自治体システム標準化」の“失敗”を繰り返さないための教訓とは
自治体システム標準化の次に、政府が描くのは「AI駆動型」の行政だ。AIエージェントによって行政はどう変わるのか。標準化の経験から、その可能性と懸念を考える。

