「全員向け」AI研修では活用広がらない? 都城市が実践、“PC苦手なベテラン”も巻き込む仕組み作り(1/2 ページ)
生成AIは導入しただけでは組織は変わらない。宮崎県都城市は「利用ログ」を分析し、現場の課題を見つけて業務改善や政策立案へとつなげている。その実践法に迫る。
生成AIを導入したものの現場で使われない。使われたとしても、既存業務の効率化にとどまり、新たな取り組みや業務そのものの見直しにはつながらない――。こうした悩みを抱える組織は、どうすればよいのか。
「私たちはいま、職員が生成AIを利用した“ログ”をめちゃくちゃ見ています。ログを見ると、現場で何が起きているのかが見えてきます。生成AIを課題解決のためのツールとして導入している組織も多いと思いますが、課題を“発見”するためのツールにもなります」
ログは宝の山――そう強調するのは、宮崎県都城市 デジタル統括課 副課長の佐藤泰格氏だ。佐藤氏は、同市で生成AI活用のかじ取り役を担っているほか、5年間で200もの新規事業に携わってきた。
私用ログからは、職員が言語化しにくいリアルな課題感や、現場のどこで行き詰っているのかなど、さまざまな実情が見えてくるという。
本記事は、日本DX大賞実行委員会が主催したイベント「日本DX大賞2026 サミット&アワード」(7月22〜23日開催)のラウンドテーブル「生成AIで市役所の仕事はどう変わるか〜都城市・直方市に学ぶ、業務効率化の先にある行政サービスの向上〜」を取材したもの。
都城市が「利用ログ」から見つけた組織改革のヒント
多くの自治体では、住民情報を扱う業務用ネットワークがインターネットから分離されている。セキュリティを確保しながら、生成AIなどの新しいツールをいかに取り入れるかは、自治体特有の課題だ。
都城市は2023年に、行政専用の閉域網であるLGWAN(総合行政ネットワーク)上で使える全国初の自治体専用生成AIプラットフォーム「zevo」を、民間企業と共同開発した。zevoでは複数のAIモデルが利用可能で、文書の内容や形式に応じてClaudeやGeminiなどを使い分けることができる。
また、都城市では推進体制も整えており、市長自らがCAIO(最高AI責任者)に就き、組織の旗振り役を担っている。
しかし、ツールを導入し、トップが利用を促しただけでは、現場の使い方まで変わらない。職員による利用は、文書作成や質問など、目の前の作業の効率化にとどまりがちだと佐藤氏は指摘する。
そこで確認しているのが、日々の利用ログだ。
「ログを見ると、本当にいろいろなことが見えてくるんですよ」
例えば「生成AIに入力した文字数が多いから、職員によく使われている」と判断するケースがあるが、ログを確認すると、やり取りだけが長くなり、成果につながっていないことも多々あるという。利用量が多いように見えても、効率的な使い方ができているとは限らないのだ。
さらに、職員が何に困り、どこでつまずいているのかも生成AIへの質問に表れる。
「生成AIは、課題を解決するだけでなく、課題を見つけるためのツールにもなります」
質問内容を分析すると、職員が明確に言葉にしていなかった業務上の課題が見えてくるという。都城市では、職員から業務上の課題を募るフォームを設けている。しかし「業務上の課題を書いてください」と求められても、職員全員がすぐに、自身の課題を明確に言語化できるわけではない。一方、生成AIには困った時にその場で質問できるため、潜在的な課題の発見にもつながる。佐藤氏は生成AIの利用ログを「宝の山」と捉えている。
財務会計でRAG導入 AIの誤答を「失敗」で終わらせない取り組み
ログから見つけた課題を、どのように業務改善へつなげるのか。事例の一つとして、佐藤氏は財務会計分野におけるRAG(検索拡張生成)の活用を挙げる。
自治体の財務会計に関する情報は、一つの部署にまとまっているわけではない。財務は財政課、会計は会計課、契約は契約課、旅費は人事担当部署と、規則や通知が複数の部署に分かれており、ルールが煩雑だ。このような環境でスキルや経験の属人化が進むと、異動や退職などによって、知識が組織から失われかねない。
そこで都城市は、複数の部署に散らばっていた財務会計のルールを横断したRAGを作成し、必要な情報を質問すれば回答を得られる仕組みを整えた。
しかし、全ての問いにAIが正確に回答できるわけではない。佐藤氏たちは「RAGを作成して終わり」ではなく、利用ログをチェックすることでAIが適切に回答できなかった質問を確認し、回答の参照元となるマニュアルの改訂やルールの見直しを実施している。
「AIの回答精度を高めるためにログを確認した結果、マニュアルや既存ルールの問題点の発見につながりました。RAGは作って終わりではなく『育てるもの』だと捉えています」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「IT化か、水道を止めるか」 “ブラック部署”と呼ばれた曽於市水道課が挑んだ、金なし・人なしの現場DX
技術職員はわずか3人。人手不足が深刻化する中、鹿児島県曽於市の水道課は、現場主導のDXで時間外対応を約75%削減した。予算も人材も限られた自治体が実現した改革とは。
「作ったRAGは休眠状態……」 直方市のAI活用、市長がCAIO就任で挑む「年間3.5万時間削減」
全職員が使える生成AIを導入しても、利用は一部に偏った――。福岡県直方市の試行錯誤から、AI導入の「その先」に必要な取り組みを読み解く。
老舗ホテル「川六」、DXで「3.4万時間」削減 年商30億円超の経理を「週3日・パート1人」で回す自動化の仕組み
年間休日72日、有給取得率30%台――人手に頼る「根性経営」から脱却するため、ホテルチェーンを展開する川六は12年間にわたりDXを進めてきた。売上30億円規模の経理を「週3日・パート1人」で支え、470件を超えるAI活用を生み出した、取り組みの全貌に迫る。

