タカラジェンヌ→「宝塚ホテル」支配人に マネジメントに生きた「劇団で培った2つの力」とは?(2/4 ページ)
「ビジネス知識ゼロ」で宝塚ホテルの支配人に就任した元月組組長の憧花ゆりの氏。専門用語に戸惑いながらも、約300人の組織の中でリーダーシップを発揮してきた。その根底にあるのは、指示の伝言ゲームを防ぐ「日々の雑談」と、信頼を保つために「自分自身のパフォーマンスを死守する」という劇団時代の組織感覚だ。個性の強い集団を一つの目標へ動かす、元タカラジェンヌの型破りなマネジメント論に迫る。
マネジメントで重視する2つのポイント
支配人に抜てきされて7年目を迎えた。舞台人として客前でパフォーマンスすることと、ホテルで接客する際にはどんな違いがあるのだろうか。
「舞台の上で決められた役を演じる、パフォーマンスをすることと、ホテルの接客は全く違います。ホテルには台本もセリフもありません。お客さまと対面したその瞬間、素の人間力で向き合う、いわば『台本のない舞台』なんです」と、憧花氏は話す。
支配人として働くに当たって、一から接客を学び直したという。
もう一つ重要になるのが、従業員のマネジメントだ。これには月組の組長時代に培った経験が生きている。組長だった当時は、下級生の悩みや相談を聞くことがよくあった。宝塚ホテルでも、若手の指導を担う。働く中で身につけた技術として「従業員自身の内面・感情のセルフケア」があり、その重要性を説く。
「接客の指導をするとき、言葉遣いや立ち居振る舞い、あいさつといった外面的なマナーだけを教えても限界がくると感じました。人に『おもてなし』を提供するのは、いわば“自分を与える仕事”です。自分の気持ちが枯渇すると、余裕がなくなってしまうのです」
「自己肯定感や感情のコントロールといった『内面』を磨かないと、接客の質を高められません。だからこそ、当社では新入社員向けにセルフケアの研修を取り入れています。現場のスタッフ自身が疲弊し、心に余裕がなくなってしまえば、お客さまが求める当ホテルのメインコンセプト『夢のつづき』という顧客価値を提供できないからです」
組長時代には、数十人もの個性の強い組子(劇団員)たちを率いてきた。その経験は、パート・アルバイトを含め約300人のホテル組織で支配人を務める現在にも直結している。特に役立っているのが「雑談」スキルだ。
「組長時代から、組子たちと雑談することをずっと大切にしてきました。今も従業員の皆さんとコミュニケーションを取る際には雑談をしています。毎日いろいろな人に自分から声をかけて他愛もない話をすることで、一人一人と関係を築けるからです」
一人一人と関係を築くことによって、いざという時に業務上の重要な話や指示も、一気にしやすくなるのだという。
「組織が大きくなればなるほど、上の指示が伝言ゲームのようになって現場に届きにくくなる。こういうことは、往々にしてありますよね。すると『なぜ、この施策をやっているのか?』という真の意図が伝わらない場面が出てきます。そんな時に、あらためて自分の言葉で伝えることが必要になってくるのですが、その時に、普段からの雑談が効いてくるのです」
また、舞台上でそれぞれの立ち位置が異なる中、それをまとめる組長は「プレイングマネジャーのようなもの」だったと明かす。組長時代には「自分自身が舞台に立ってどんなパフォーマンスを見せるか」が重要であり、そのことを常に心掛けていたという。
「組織をまとめようとして、みんなに声をかけてコンディションに気を配っていても、自分自身がセリフを忘れていたら、言い訳ができませんし、誰もついてきてくれません。そこがブレたら、信頼は一瞬で崩れるわけです。パフォーマンスをするために宝塚歌劇団へ入ってきているわけで、組長になったからといって、そこがブレることは許されません。リーダーがどんなに調整に追われても、自分自身のパフォーマンスの質は守り抜く。そのためには『抱え込まずに(細かいことを)捨てる覚悟』も必要でした」
組の全員がそれぞれ個性と才能を持ちつつ「いい舞台を作りたい」「宝塚が好き」と思っている。「一つの分かりやすい目的に向かっている」という意味では、組織をまとめやすかったという。そんな舞台でのマネジメントと、ホテル運営での共通点も実はある。
「劇団時代は(作品の)演出家が全てでした。演出家がどういう作品にしてどう表現してほしいかをくみ取り、役に落とし込む。これは会社運営でも同じです。会社がやりたいことをくみ取って『この部分なら自分も力になれる』という接点を見つけて全力を注ぐ。すると、自分自身のモチベーションも保てるんです」
日々の雑談で目線を合わせ、スタッフ一人一人のモチベーションを高める。この社内マネジメントを徹底することの効用は、従業員満足(EX)の向上にとどまらない。それは全て「ホテルを訪れるファンに対して『夢の世界の余韻』を途切れさせずに届ける」という、宝塚ホテルのミッションに直結しているのだ。
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