韓国と北朝鮮、その狭間で考える旅+D Style 快楽旅団

» 2007年04月20日 10時00分 公開
[猪蔵,ITmedia]

国境について考える

 波乱含みの世界だが、猪蔵は、ひとえに平和な世界を願う一人である。確か、カップヌードルのCMに「NO BORDER」とコピーを掲げたものがあったが、良いなと思った。しかし実際には、人類の抱える問題は複雑で我々が願う世界平和には程遠い。なおさら言うは易しで、その実情を目の当たりにしないとなかなか実感しないものである。

 今回ヒマナイヌ韓国法人の仕事がメインであったが、時間を見つけ……というかかなり確信犯的なスケジューリングで、38度線上の板門店(非武装地帯DMZ)を訪問した。 訪韓前、うちのスタッフに「板門店に行くのは難しいの?」と聞くと「ツアーがあるから利用すると良いですよ」とアドバイスを受け、ツアーを申し込んだ。「一緒に行くか?」と聞いたが韓国籍の人間は特別な申請が必要らしい。外国人なら最前線まで見学する事ができるが、韓国国籍の人は、申請に半年から1年かかるという。またこのツアーは、韓国軍OB主宰の旅行会社が運営しているという。

 島国に生をうけた者(英国や日本)にとって、国境という概念は極めて希薄である。この韓国という国は元々朝鮮という国が南北に分断されている。ちょうどのその国境となる38度線上の板門店では、北朝鮮軍と国連軍が今のところ「休戦」状態にあり、日々国境を挟み緊張感が走る。

photo 南側から見た北朝鮮の官舎

 1953年7月27日の休戦協定に従い設置された軍事分界線が、まさに現在の休戦線と非武装地帯である。非武装地帯は軍事分界線を境界に南北2キロメートルずつに分割されている地域である。およそ6400万坪に至る広大な区域である。軍事分界線を境界に南北側では100万人に近い軍隊が24時間体勢で銃を構えて待機している。

photo 無駄な動きのない兵士の動き

ただの観光ではないツアー

 現地スタッフに渡されたパンフレットは意外にも明るい雰囲気。朝8時に集合し一路ピックアップされる。今回のツアーは約10人。乗り込んだバスは重々しい雰囲気。厳しい表情のガイドさん。普通のツアーガイドとは違い、バスの中で語られるガイドは、ある種の講座を受ける感じだ。「あなたはどう思うのか?」と問い詰められながら目的地の非武装地帯まで向かう。さらに今回は、板門店の周囲で南北の共同警備区域 (JSA-Joint Security Area)と呼ばれ、南北両軍が境界線を隔てて顔を合わせている国境の場所まで足を延ばした。南北の会議が行われる本会議場は国境の中心、会議室の中心にテーブル、その国境中心にマイクが置かれている。

photo 机を挟んで左側が韓国、右側が北朝鮮

 訪問者が会議室内で境界線を越えることは認められているため、合法的に北朝鮮に入国した事になる。もちろん会議室の外から国境を超えた場合はまた大問題になる。

 この日の気温は、氷点下5度。雲ひとつなく晴れ渡る板門店の空をよそ目に緊迫感のある空間には、戸惑いを感じずにはいられなかった。

photo その先の北朝鮮の街を望む。しかしプロパガンダ用に作られた街だそうだ

 韓国兵士は、微動だにしなかったが、国連軍の兵士は意外にも笑顔で話に応じてくれ、写真撮影も許可してくれた。ちなみに韓国兵は、身長175センチ以上、英語力を持っていることなどの条件でエリートが配属される。

photo 通常よりも兵士の数が少なく北朝鮮兵に至っては、官舎から護衛

 あいにくこの日は、北朝鮮軍側の兵士は、誰もいない状況となった。原則として南北兵士は軍事境界線を越えてはならず、境界線を越えた者、相手兵士と会話を交わした者は極刑に処せられるらしい。これが朝鮮半島の現実である。板門店は、世界でもっとも戦争の危険性のある場所の一つだけあって、世界情勢が瞬間的に分かる場所でもある。その現場での緊迫した空気は、純粋な観光とは言いがたいが、普段立ち入ることのない場所に訪問できる貴重な体験ができる事はいうまでもない。

(ロケ地:韓国)


著者紹介

猪蔵(いのぞう)

株式会社ヒマナイヌ 取締役副社長いつも腹ペコ。世の中の面白いことを常に探っている在野編集者兼古物商。大学在学中より映像編集をはじめる。傍ら、株式会社まんだらけの店頭公開業務に取締役として従事。公開後、株式会社イマジカに移籍し、ソフトウェア開発を行なう。また映像専門誌「DVJ」編集デスクも務める。2003年、株式会社ヒマナイヌを起業。現在は東京麻布十番のカフェ縁縁を経営他、投資会社・株式会社アストリックス・キャピタル・パートナーズの取締役に就任。一瞬香港在住。プランニングを中心に映像に関するライティングや著書、TV番組の構成も手がけるなど多方面に活躍中。「人への思いやり」や「おもてなし」をテーマに頓知の利いた商品を世に送り出そうと奔走中。


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