コラム
» 2007年06月15日 06時30分 公開

「インランド・エンパイア」+D Style 最新シネマ情報

デイヴィッド・リンチの異世界は新作「インランド・エンパイア」でも止まらない。不条理を軽く飛び越えて、さっぱりワケが分からないが、妙に納得してしまう不思議な魅力がある。どう解釈するかは見る人次第。陰鬱で暴力的なトリップ体験はいかが?

[本山由樹子,ITmedia]
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 もはやデイヴィッド・リンチの暴走は誰にも止められない。前作「マルホランド・ドライブ」(2001)でもリンチならではの異世界に迷い込んでしまったが、5年ぶりの新作「インランド・エンパイア」は不条理を軽く飛び越えて、さっぱりワケが分からない。とはいえ、リンチ映画の場合は、それが不快ではなく、分からなくてもいいのではないかと妙に納得してしまう不思議な魅力がある。

 町の有力者と結婚し、豪邸に住むハリウッド女優ニッキー・グレース(ローラ・ダーン)の下に、ある日、謎の中年女性が現れ、不吉な予言を言い渡す。数日後、映画「暗い明日の空の上で」のヒロインに抜擢されるが、実はこの作品はポーランド映画「47」のリメイクで、主演の2人が撮影中に殺害されるという、呪われた企画だったのだ。不倫をテーマにしたストーリーとリンクするかのように、ニッキーは共演者のデヴォン・パーク(ジャスティン・セロー)と私生活でも恋に落ちるが、やがて彼女は現実と映画の区別がつかなくなり……、というのが(おそらく)大まかなストーリー。

 ニッキーの私生活と劇中劇が同時進行し、さらには不思議なウサギ人間、一軒家にたむろし歌って踊る娼婦たち、それら一部始終をテレビで見て涙を流すロスト・ガールなど、時間や空間を越えた登場人物とシーンが目まぐるしく展開する。極めつけは終盤に登場する裕木奈江。瀕死状態のニッキーを傍らに、ホームレスのオバちゃんと意味不明な会話を延々と繰り返す。その光景の得体の知れなさが本作を象徴しているようだ。これら全てのシーンは何の脈絡もなく、最終的に収れんすることもない。

 もともと完成した脚本はなく、リンチがアイデアを思いつく度に、それを脚本にして、デジタルビデオで撮るという方法で1本の映画にしたらしい。つまり、監督も出演者もどの方向に向かって進んでいるのか分からずに撮影を続けていたということだ。ストーリーはあってないようなもので、本作は奇才リンチの脳内イメージをのぞく、といった方がいいのかもしれない。どう解釈するかは見る人次第。陰鬱で暴力的な180分に及ぶトリップ体験をしてみてはいかがだろうか。

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(c)2006 BY INLAND EMPIRE PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED.

インランド・エンパイア

監督・脚本・製作:デイヴィッド・リンチ

出演:ローラ・ダーン、ジェレミー・アイアンズ、ジャスティン・セロー

配給:角川映画

2007年7月中旬より恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー



筆者プロフィール

本山由樹子

ビデオ業界誌の編集を経て、現在はフリーランスのエディター&ライターとして、のんべんだらりと奮闘中。アクションからラブコメ、ホラーにゲテモノまで、好き嫌いは特にナシ。映画・DVDベッタリの毎日なので、運動不足が悩みの種。と言いつつ、お酒も甘いものも止められない……。


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