コラム
» 2008年04月03日 15時28分 公開

「フィクサー」+D Style 最新シネマ情報

売れっ子脚本家の監督デビュー作「フィクサー」は、そうそうたるメンバーで作られた社会派ドラマ。米国法曹界の裏稼業をテーマにしたこの作品、企業戦士の皆さんには決して他人事ではないはず。ぜひご覧あれ。

[本山由樹子,ITmedia]
photo (C) 2007 Clayton Productions, LLC

 名脚本家は名監督になれるか? 決してそうとは限らないが、「クラッシュ」「告発のとき」のポール・ハギスと同様、トニー・ギルロイにそんな杞憂はいらなかったようだ。

 ギルロイはマット・デイモン主演の「ジェイソン・ボーン」シリーズで知られる売れっ子脚本家。彼の監督デビュー作「フィクサー」は、製作にシドニー・ポラック、製作総指揮にスティーヴン・ソダーバーグ、ジョージ・クルーニー(主演も)、アンソニー・ミンゲラ(つい最近急逝した「イングリッシュ・ペイシェント」の監督)というそうそうたるメンツを迎えた社会派ドラマだ。アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演賞、脚本賞を含む主要7部門にノミネートされ、ティルダ・スウィントンに助演女優賞をもたらした。

 フィクサーとは、米国法曹界で“もみ消し屋”を意味する隠語。法律事務所に所属しながらも、決して表舞台に出ることはなく、クライアントが困っているトラブルを処理する裏稼業のスペシャリストである。

 主人公はそのフィクサーであるマイケル・クレイトン(クルーニー)。従弟との飲食店経営に失敗、ギャンブル好きもたたって8万ドルの借金を背負い、1週間後に返済を迫られていた。そんな中、巨大農薬会社の弁護を担当していた同僚のアーサー(トム・ウィルキンソン)が精神に異常をきたす。極度のプレッシャーと良心の呵責に苦しんでいたのだ。マイケルは、原告側に寝返り農薬会社の悪事を暴露しようとするアーサーを確保するように上司から命じられる。ところが、アーサーが何者かによって殺されてしまい……。

 農薬会社への集団住民訴訟をめぐるスキャンダルと、そこに暗躍する弁護士たちの姿を通して、社会の抱える闇を抉り出す。いかにもハリウッド的な政治サスペンスの香りがするが、キャラクターがしっかりと描かれているので、緻密な人間模様に引き込まれるだろう。

 本作の面白いところは、登場人物すべてに欠点があり、善人、悪人の境界線がグレーなこと。例えば主人公は弁護士といえども薄汚いもみ消しの仕事しか経験がなく、おまけに借金と元妻との親権裁判にも追われ、疲れ切っている。主人公と対峙する農薬会社の法務部本部長(いわば企業内弁護士。演じるのはスウィントン)も、冷酷な表情を見せつつ、実は人一倍プレッシャーに弱い。彼らは、いつしか大企業という歯車に飲み込まれ、自分の意思とは関係なく、結果的に善人、悪人になってしまったのだ。

 クルーニーもウィルキンソンも達者だが、スウィントンの生々しい演技は忘れ難い。スカートの上に乗った脂肪や、プレッシャーで脇の下にできる汗染みなどに中年女性の悲哀も感じさせる。

 企業戦士の皆さんには決して他人事ではないはずですから、ぜひご覧ください。

photophoto

(C) 2007 Clayton Productions, LLC

フィクサー

監督・脚本:トニー・ギルロイ/製作総指揮:スティーヴン・ソダーバーグ、ジョージ・クルーニー、アンソニー・ミンゲラ

出演:ジョージ・クルーニー、トム・ウィルキンソン、ティルダ・スウィントン、シドニー・ポラック

配給:ムービーアイ

2008年4月12日よりみゆき座ほかTOHO系全国ロードショー



筆者プロフィール

本山由樹子

ビデオ業界誌の編集を経て、現在はフリーランスのエディター&ライターとして、のんべんだらりと奮闘中。アクションからラブコメ、ホラーにゲテモノまで、好き嫌いは特にナシ。映画・DVDベッタリの毎日なので、運動不足が悩みの種。と言いつつ、お酒も甘いものも止められない……。


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