優秀なレンズが揃うM42マウント:-コデラ的-Slow-Life-
豊富なレンズ群が魅力のM42マウントを採用した「ZENIT-E」。ツァイスなど一流ブランドレンズも選べるM42マウントだが、日本ならアサヒペンタックスのレンズ群が豊富。ボケ足が綺麗な明るいレンズでさっそく撮影してみた。
ではZENIT-Eの撮影である。M42マウントの魅力は、なんといっても豊富なレンズ群だ。ドイツではツァイス、フランスではアンジェニューといった一流ブランドがあるし、旧ソ連にはジュピターがある。だが日本ではなんと言っても、アサヒペンタックスのレンズ群が豊富だ。価格も安く、数も多い。性能は多くのカメラマンのお墨付きである。日本に住んでいて、これを使わない手はない。
最初に手に入れたのが、Super-Takumar 55mm/F1.8。マルチコーティングになる前の、ずいぶん昔の標準レンズである。だがこの時代のレンズにしては珍しく45センチまで寄れるので、ちょっとしたマクロレンズ風の写りにもできる。価格は3150円。
なにせカメラ側ではシャッタースピードが最高で1/500秒までしかないので、なかなか絞りが開けられない。そこでND4フィルタを併用することにした。このフィルタも中古である。フィルタなどは真面目に新品を買うとそこそこいい値段するものだが、中古市場ではいくらにもならないということもあって、かなりの高級品が格安で手に入る。
このレンズ、開放ではどこにフォーカスが合ってるのかよくわからないほど甘いが、少し絞ればなかなかいい描写をする。ボケの深さなどは、ちょっとほかにはない味だ。ただ逆光にはかなり弱く、盛大なハレーションが発生する。このレンズが活躍した頃は、逆光で写真を撮るなどということは、セオリーに反することだったのだろう。
手間をかけただけの手応え
せっかくだからもう少し明るいレンズが欲しいと思い、のちにもう1本レンズを購入した。同じくアサヒペンタックスのSMC-TAKUMAR 50mm/F1.4である。こちらは55mm/F1.8よりも少し新しく、マルチコーティングになった標準レンズだ。中古市場には数は多いが、実は結構程度のいいものが少ない。
それというのもこのレンズ、結構玉が黄色く変色しているものが多いのである。マルチコーティング技術がまだこなれていなかったのだろうか。変色の度合いによって、グラデーション的に値段が違ってくる。
購入したものもやや変色していたため、格安の3675円であった。変色以外には傷もホコリもない、綺麗なレンズだ。仮に変色の影響があったとしても、色味ならばフィルムスキャンしたあとで補正するのは簡単である。
こちらも早速撮りに行ってみた。こちらは開放でも、インフォーカス部分にキレがある。そしてそれに対するボケ足の美しさが素晴らしい。まさに「夢のようにボケる」レンズだ。色味は多少は補正しないとダメかと思ったが、レンズ変色の影響はほとんど見られない。これなら安心して使える。
ZENIT-Eの撮り味だが、完全マニュアルなので、まあ手間がかかるのは事実だ。アングルを決めたら、露出計を見て絞りとシャッタースピードを決め、もう一度フォーカスを取り直してシャッターを押す、という作業である。フォーカスはスクリーンにスプリットイメージがなく全面マットなので、絞ったときは山が掴みにくい。
しかし、このプリミティブな感じがまたいいのだ。楽に撮れることが良いとは言い切れない。1枚1枚を時間をかけて撮るから、24枚撮りフィルム1本撮るのに、かなりの時間がかかる。
当面の難点としては、結構な重量がある割には、ストラップを付ける釣り金具がないことである。この当時は、革製カメラケースに入れたままで、蓋を開けて撮るのが一般的だったせいだろう。中古カメラ店では、この手のカメラケースは分類もされないままで、かごいっぱいに山積みになっている。そのうち山の中から、掘り出してみることにしよう。
小寺 信良
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
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