第2鉄 鶏肉駅弁にハズレなし。折尾駅の「かしわめし」:杉山淳一の+R Style(2/2 ページ)
旅と鉄道をテーマにつづる「+R Style」、今回取り上げるのは駅弁だ。肉食系鉄道ライターが取り上げる駅弁のおかずはもちろん“肉”。旨い「かしわめし」を食べに、九州へ行こう。
折尾駅から若松へ、そして渡船で戻る旅
折尾駅は鹿児島本線と筑豊本線が交差する駅だ。立体交差の上に鹿児島本線、下に筑豊本線のホームがある。このほかに、駅の南東に鹿児島本線の小倉方と筑豊本線の南側を短絡する線路があって、両線を直通する列車が多い。直通列車は立体交差のホームを通らないので、短絡線側に直通列車専用のホームがある。ちょっと変わった構造である。鹿児島本線と筑豊本線がかつては別の鉄道会社だったこと、そして、筑豊から採掘された石炭を全国に出荷するために、あとから短絡線を作ったという経緯がある。
2008年夏、25年ぶりに折尾駅を訪れた。かしわめしは記憶の中のそれと同じ姿、同じ味だった。高校時代の、まだ心細かった少年時代の旅を思い出した。立ち食い蕎麦屋は今もある。駅弁と同じ東筑軒の営業で、いちばん安いかけうどん、かけそばにもかしわの煮つけが載る。「さすがはかしわめしの駅」と感動する。ちなみに「きつね」などを頼んでもかしわが入っていて、つまり、ネギとかしわは麺類の基本の具であるらしい。
東筑軒のかしわめしは折尾駅だけではなく、周辺の黒崎、八幡、若松、直方などでも買える。新幹線の小倉駅にもあるという。もし折尾駅でかしわめしを買い、ちょっとした旅気分を楽しみたいなら、筑豊本線の若松行きに乗ろう。この路線は石炭を若松港へ運ぶために作られた路線で、蒸気機関車の時代は長大な石炭列車が頻繁に行き交った。現在は普通列車が1時間あたり2往復。のんびりしたローカル線である。終点の若松までは約20分。早弁が得意なら、車内でかしわめしを食べよう。
ゆっくり食べたいなら、若松駅から海沿いに歩いてみよう。若戸大橋のたもとまでは遊歩道が整備されている。ベンチに腰掛けて海を眺めながら、伝統の味を楽しむといい。この海は洞海湾。対岸は戸畑だ。向こう側に行くならバスで若戸大橋を渡れる。ささやかな船旅も楽しむため、若戸渡船に乗ってみたい。若戸渡船は北九州市が運行しており、運賃は大人100円。若戸大橋を見上げつつ、若松渡場から戸畑渡場まで所要時間は約3分だ。
戸畑渡場から南へ歩くと鹿児島本線の戸畑駅に着く。戸畑は新日本製鐵八幡製鐵所がある街。旭硝子の創業の地でもある。日本の近代化の原動力となった地域だが、昼下がりの街は静かだ。ここから西行きの電車に乗れば折尾に戻れる。東行きの電車に乗ると小倉、そして門司港だ。時間があったら、門司港レトロ地区にも足を伸ばしてみたい。日本が世界へ向けて足を伸ばし始めた当時の建物が残る。鉄道ファンには九州鉄道記念館という聖地がある。このルートは、北九州の休日にふさわしい旅である。
今回の電車賃
- 九州旅客鉄道(JR九州)筑豊本線 折尾−若松 運賃片道270円
- 若戸渡船 運賃片道100円
- 九州旅客鉄道(JR九州)鹿児島本線 戸畑−門司港 運賃片道360円
- かしわめし 650円
著者プロフィール:杉山淳一
肉食系鉄道ライター(魚介類が苦手)にして、前世からの鉄道好き。生まれて間もなく、近所を走っていた東急池上線の後をついていったという逸話あり。曰く「いつもそばを走ってたから、あれが親だと思った」
コンピューター系出版社でゲーム雑誌の広告営業を経験した後、フリーライターとなる。オンライン対戦ゲーム、フリーウェア、PCテクニカルライティングなどデジタル系の記事を専門とし、日本初のEスポーツライターとしてオンライン対戦ゲーム競技を啓蒙する。
趣味は日本全国の鉄道路線探訪で、現在の路線踏破率は約8割。著書は「知れば知るほどおもしろい鉄道雑学157(リイド社)」、「A列車で行こう8 公式ガイドブック(エンターブレイン)」など。
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