第3鉄 爆走ディーゼル特急「はまかぜ」で、余部鉄橋を訪ねる:杉山淳一の+R Style(2/2 ページ)
日本海に面してそびえ立つ赤い橋、「余部(あまるべ)鉄橋」の絶景をご存じだろうか。現在余部鉄橋を渡るディーゼル特急「はまかぜ」は、国鉄時代からの車両が使われているが、2011年春には新型車両に切り替わる。今回は城崎温泉へ、赤い鉄橋+キハ181系に会いに行く。
分水嶺を越えると、寄り添う流れは円山川に変わる。日本海の津居山湾に注ぐ川だ。和田山駅で山陰本線と合流し、こんどは山くだり。さっきまで低速で力強く上っていたキハ181系が、今度は勢いをつけて駆けていく。円山川の川幅が広がったところで城崎温泉に着く。しかし、ここで降りてはいけない。それではただの温泉旅行だ。鉄道好きならもう少し先の絶景を目指したい。なにしろ城崎温泉のさらに先へ行く特急列車は「はまかぜ」だけなのだから。
車窓絶景の名所、余部鉄橋へ
城崎温泉の先はトンネルの連続。チラリチラリと景色が見える。退屈して居眠りしそうだが耐えてほしい。日本海側に出ると絶景の予感。高いところから湾を見下ろす景色が連続する。香住を発車して数分で鎧駅。ここから集落を俯瞰する景色がいい。そしてトンネルをいくつか抜けた瞬間、空中に放り出されたような景色に出会える。余部鉄橋だ。ほぼ180度の水平線が見渡せる絶景ポイントである。「はまかぜ」はややスピードを落としながら通過する。この鉄橋を渡ったところが餘部駅だが、「はまかぜ」は停まらない。浜坂駅で下り、逆方向の各駅停車に乗って再訪しよう。
余部鉄橋は1912(明治45)年に竣工した日本最大のトレッスル橋だ。長さ約310メートル、高さは約40メートル、朱色の橋脚が11脚もある鉄骨製の橋。橋上からの車窓だけではなく、その外観も美しいことから、鉄道ファンのみならず観光客からも人気がある。しかし、老朽化と通行速度の制限、強風時に通行禁止となり列車運行に支障があることなどの理由で架け替えが決まった。1986(昭和61)年に機関車と客車合わせて7両が突風のため転落し、列車乗務員と真下の建物に居た人々を巻き込んだ死傷事故があったのだ。これも運行速度制限を厳しくする理由となり、間接的に架け替えを進める理由の1つになった。
現在も余部鉄橋は現役だが、新しい鉄筋コンクリートの橋脚が立ち始めており、余部鉄橋の風景は変わった。早くも観光客は減りつつあるという。外からの眺めは変わったかもしれないが、車窓から海への眺めは変わらない。まだ余部鉄橋を訪れたことがないなら、ぜひ、新しい橋に変わる前に渡ってみよう。キハ181系の走りと赤いトレッスル橋を体験するなら今のうちだ。
余部鉄橋は2012年には真っ白なコンクリートに変わり、そのころには橋を走る唯一の特急「はまかぜ」は新型車両になっている。赤い鉄橋を惜しむ気持ちも分かるが、海と空の青、背景の山の深緑に、白い鉄橋はとてもよく似合うのではないか。そう思うと少しずつ、新しい橋と新しい「はまかぜ」への期待が高まってくる。
今回の電車賃
特急「はまかぜ」大阪−浜坂:運賃3890円、特急料金2390円
著者プロフィール:杉山淳一
肉食系鉄道ライター(魚介類が苦手)にして、前世からの鉄道好き。生まれて間もなく、近所を走っていた東急池上線の後をついていったという逸話あり。曰く「いつもそばを走ってたから、あれが親だと思った」
コンピューター系出版社でゲーム雑誌の広告営業を経験した後、フリーライターとなる。オンライン対戦ゲーム、フリーウェア、PCテクニカルライティングなどデジタル系の記事を専門とし、日本初のEスポーツライターとしてオンライン対戦ゲーム競技を啓蒙する。
趣味は日本全国の鉄道路線探訪で、現在の路線踏破率は約8割。著書は「知れば知るほどおもしろい鉄道雑学157(リイド社)」、「A列車で行こう8 公式ガイドブック(エンターブレイン)」など。
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