第6鉄 新しいのに懐かしい、東急世田谷線よりみち散歩:杉山淳一の+R Style(2/2 ページ)
ぽっかり時間が空いてしまった。何しよう?――そんなときは東急世田谷線に揺られてみたい。東急世田谷線は、かつて「玉電」と呼ばれた路面電車の生き残り。5キロの距離を20分かけてゆっくり走れば、懐かしさが漂う東京散歩を楽しめる。
名物の踏切と光の道
若林踏切を歩道から眺める。環七通りは渋滞しやすく、そんなときにクルマで通るとイライラする。逆に電車に乗っていて信号で待たされても心外ではある。しかし、こうして観察してみると、最近はダイヤを工夫しているようで、電車が待たされることはないらしい。道路の方もスムーズで、前後の信号との連携が良くなったようだ。クルマ側が赤でも電車が来ないときもある。横断歩道のための信号機でもあるらしい。
電車が環七を渡ると、前方にオレンジ色の背の高いビルが見えてくる。キャロットタワーという、地域再開発で建てられた高層ビルだ。オフィスや店舗が入っているほか、世田谷区が主導したため、区役所の出張所など公共施設としても使われている。特筆すべきは26階だ。ここは最上階で、レストランのほかに入場無料の展望フロアがある。世田谷線の三軒茶屋駅はキャロットタワーの麓にあって、線路はそこへ真っ直ぐ延びている。
このキャロットタワー3階にある「世田谷文化生活情報センター・生活工房」で、5月24日まで、「世田谷線ものがたり」展を開催中だ。世田谷線の独立40年を記念した催しで、懐かしの写真、世田谷線の歴史を示す資料、世田谷線や玉電を再現した鉄道模型ジオラマを展示している。沿線に住んだことがある人や渋谷に通った人なら、懐かしいと思う写真ばかり。鉄道模型は精巧に作られていて、鉄道ファンでなくても興味深いだろう。
鉄道模型は線路幅9ミリのNゲージと、16ミリのHOゲージがある。ジオラマの走行は土日限定とのこと。HOゲージには操作体験ができるコーナーがあったので、私も走らせてみた。実際の電車のようにゆっくりと走らせていると、係員が心配して「動きませんか」と声をかけてくれた。「いや、これでいいんだ」と1周させると、今度は彼が私の倍以上の速度で走らせた。いや、違う。世田谷線はそんなに速く走っちゃいけないんだ――そう言いかけてやめた。今の新型は昔の電車より速いのだ。彼の速度感が正しいかもしれない。
展望フロアに上がったら、ちょうど日が沈む頃合いだった。東京タワーや新宿高層ビルなど、派手な夜景が見える方はレストランになっている(参照リンク)。スパゲティが800円程度の安い店だが、上手な商売かもしれない。無料開放されている方は西向きで、富士山や羽田空港が見える。そして幸いなことに、こちらから世田谷線が見下ろせる。
世田谷線の線路の方向、その真上に夕陽があった。4本のレールがオレンジ色に光っている。そこを世田谷線の電車がすれ違う。さっき見た鉄道模型のようでいて、もちろんこちらの方が良くできている。展望フロアは区の施設としては珍しく、23時まで開放され、夜景もたっぷり楽しめる。暗くなるまで電車を眺めながら、やっぱり私の速度感の方が正しいと思った。
今回の電車賃
世田谷線散策きっぷ 大人320円
著者プロフィール:杉山淳一
肉食系鉄道ライター(魚介類が苦手)にして、前世からの鉄道好き。生まれて間もなく、近所を走っていた東急池上線の後をついていったという逸話あり。曰く「いつもそばを走ってたから、あれが親だと思った」
コンピューター系出版社でゲーム雑誌の広告営業を経験した後、フリーライターとなる。オンライン対戦ゲーム、フリーウェア、PCテクニカルライティングなどデジタル系の記事を専門とし、日本初のEスポーツライターとしてオンライン対戦ゲーム競技を啓蒙する。
趣味は日本全国の鉄道路線探訪で、現在の路線踏破率は約8割。著書は「知れば知るほどおもしろい鉄道雑学157(リイド社)」、「A列車で行こう8 公式ガイドブック(エンターブレイン)」など。
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