電子出版時代における漫画編集者のあるべき姿:徹底討論 竹熊健太郎×赤松健 Vol.1(3/3 ページ)
「業界はこのまま行けば数年で崩壊する」――週刊連載を抱える現役漫画家である赤松健氏と、「サルまん」などで知られる編集家の竹熊健太郎氏。電子出版時代における業界の変動を漫画家と編集家という異なる2つの視点で解き明かす。
サルまん2.0ではメディアミックス構想があった(竹熊)
竹熊 僕が前に手掛けていた「サルまん2.0」ってのは、まだ本題に入る前に終わっちゃった(中断した)んですよね。中止の判断は作者(竹熊と相原コージ)の側から出しました。
赤松 それはだいたいWikipediaに書いてあるような理由なんですか?
竹熊 まあだいたいそうなんですけど、サルまん2.0って、要するにアニメやゲーム、グッズを作ったりとか、あの2人(作中の相原・竹熊)がメディアミックスを作者が仕掛けて生きていくという展開を考えていて、最初は相原(コージ)君もそれでやろうって言ってたんだけど、連載するうちにやっぱり彼は漫画家だから、漫画を描きたいってことになって。
というか僕が脳梗塞(こうそく)になる前に「サルまん」の新装版が出たんですよ。箱入りの。あれが売れたんですよ。それも個人ブログ(たけくまメモ)経由でアマゾンのアフィリエイトだけで3000冊とか出て。あの作品は10年以上も品切れ状態だったんです。だから、最初はよそから出すから絶版にしてくれってこちらから小学館に言ってたんですよ。実際、他社からサルまん出さないかって話は幾つかありましたし。
赤松 そしたら小学館は何て言ったんですか。
竹熊 小学館の担当者にね、最後の新装版が出て10年も増刷がかかっていないし、よそから出すから絶版にしてほしいって言ったらさ、ちょっと待ってくれってことになって、上に話を通して再販があっさり決まったんですよ。よそで出すとなったら現金なもので(笑)。
それで描き下ろしの付録をつけたんです。それが萌え漫画の書き方。自分のブログで1年ほど前から、僕と相原コージは古い作家だから萌えが分かりません、だから教えてくれと読者に呼びかけましてね。で、相原君がわざとへたくそなタッチで萌えないような女の子のキャラを描いて、それをブログに乗っけて、読者に添削してほしいって言ったら、すごい反応があったの。それがそのままマーケティングになったんです。後は新装版の装丁をどうするかとか、キャッチフレーズを募集しますとかいうのを1年ほどやりました。小学館としては20年前の旧作だから、最初から売れるとは思ってない。だから初版が9000部だったんです。1冊1680円で、漫画としてはえらく高いですよ。上下巻で3360円。そうしたらブログの宣伝効果で、増刷がかかったんですよ。
その直後に僕は脳梗塞(こうそく)で入院したんだけど、Amazonからお見舞いでミネラルウォーターの詰め合わせが一箱、頼んでもいないのに届いた(笑)。その後Amazonの営業が小学館に来て、サルまんのパート2は出さないのかって。それで続編を描く話になったんですよ。
あの時では、サルまんの2.0をやるんだったらネットの公式サイトと連動してやろうと。あとはメディアミックス展開を本当に始めて、アニメを本当に作ろうとかさ。蛙男(商会)さんにも協力してもらうっていう話を取り付けていたんですよ。ほかにも萌えキャラの声優募集ってのをやろうとか、セリフをみんなに吹き込んでもらって人気投票しようと思ってた。もちろん全部「シャレ」でやるんですよ。だから失敗も織り込み済みで、失敗の課程がギャグにできると思っていた。それが全部ダメになったんですよ。
―― 担当の編集の方は、そういう周辺のことをやろうとしてることに対してどう言っていたんですか?
竹熊 メディアミックスのまね事とはいえ、本当にやるのだということをよく分かっていなかったんでしょうね。分かってたら多分通さなかった。
―― 編集者って、漫画家が課外活動でいろんなことをするのを、あまりいい顔はしませんよね。自分が担当している漫画だったり漫画雑誌の利益を最大化することには尽力しても、漫画家の人生や漫画家のふところのことは二の次で。
竹熊 それはある意味当然なんですよ。そこまで作家の面倒を見る必要は本来ないわけで。
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