RFIDはプロセス変革とともに――舟本流通研究室代表 舟本秀男氏RFIDが変革する小売の姿(1/2 ページ)

RFIDは小売業界の業務プロセスにどのような影響を及ぼすのか?流通業界の革新についての研究で知られる舟本流通研究室代表の舟本秀男氏に、RFIDが小売流通業界にどのような影響を与えるかについて寄稿してもらった。 

» 2004年09月22日 22時15分 公開
[舟本秀男,舟本流通研究室]

リテイルシステムズ/VICS2002年大会

 原材料メーカーから消費者、さらには廃棄物処理にいたる流通サプライチェーンにRFID技術を適用する試みは、1999年MITにAutoITセンターが設立され、実現に向けた活動が開始された。

 その方向性が明示されたのは2002年5月にシカゴで開催された「リテイルシステムズ/VICS2002」大会のこと。同センターのメンバーでもある米Target上級副社長兼CIOのポール・シンガーは「アトムとビットを統合して新たな世界を創造する」ことがミッションであると説明した。 

 原材料、製品、梱包、店頭商品であるアトム(物体)を必要とされる場所でビット(データ)として正確かつ迅速に捉え、サプライチェーン内のVisibility(可視性)を高めることがRFID採用の役割である。

 これにより、商品のトラッキングとトレーシングを高度に実施することができる。昨今、RFIDに関する話題は高まっているが、技術面に偏ったディスカッションや報道が中心で、業務プロセス面がおざなりになっているのは残念。RFIDはプロセス変革とともに取り組まなければならないテーマである。

Wal-MartのRFID採用

 2003年「リテイルシステムズ/VICS大会」で、米Wal-Martの上級副社長兼CIOであるリンダ・ディルマンは、「2005年1月より配送センターを中心としたパレット/ケースの処理業務でRFID本格稼動を実施する」と発表し話題となった。

 その後、否定的な見解を持つアナリストや報道機関はその全面実施に疑問符を投げかけたが、2004年の大会で同社米国組織最高責任者のマイケル・ジュークは「前年の発表から全くトーンダウンしておらず、予定通りに進行している」と発言、その詳細を公表した。

 2005年1月には主要100社と、申し出のあった37社とダラスの配送センターで本格実施され、2006年末には米国における全ての配送センターで入出荷されるパレット/ケースはRFIDシステムで処理されることになる。

 その後、インターナショナル組織においても採用を推進することになるので、我が国への影響も生じて来よう。

Wal-MartのRFID採用目的

 Wal-Martはなぜ膨大な投資を伴うRFID採用を積極的に推進するのだろうか。これには、同社のたゆまぬ販売管理費の削減と売上増加に対する取り組み姿勢がある。

 Wal-Martでは1989年、全商品の90%がバーコードにより明細情報が取得できるようになり、データベースを駆使した消費者購買分析が開始され、その後の情報基盤が確立された。

 1991年にはRetailLink(インターネットを使ってサプライヤーと接続を図るWal-MartのEDIネットワーク)が発表され、取引先との情報共有によるコラボレーション基盤を構築していった。1998年に、物流バーコードの全面採用による「ジャスト・イン・タイム」のサプライチェーン・システムによる全商品のトラッキングシステムが完成した。

 このような物流システムならびに情報システムの構築が寄与し、同社の販売管理費は17%前後のレベルを維持している。

 これは、米国の競合各社が22〜25%であること、また日本の大手GMS(General Merchandise Store)や百貨店が28〜30%であるのと比較した場合いかに低く抑えられているかが分かる。強力なバイイングパワーで低価格に商品を調達する機能と併せ、Wal-Martは抜群の価格競合力で流通業界における圧倒的な地位を築き拡張している。RFIDはその競合力をさらに拡大させるものである。

 配送センターにおける商品入出荷作業および在庫把握の自動化によるコスト削減、トラッキングとトレーシングによる可視性の向上から、過剰在庫の削減と品切れ縮小による売り上げの増加がもたらされる。

 将来的に棚在庫のリアルタイム把握ができるようになると、適切な商品補充による売り上げの増加、万引きの予防、さらに自動発注の精度向上と棚チェック作業の軽減による大幅なコスト削減が見込まれる。Wal-MartのRFID採用は、持続的競争力強化に向けたプロセス変革の一環として実施されたものである。

RFIDの国際標準について

 RFID技術は、EA、イベント入場券、航空貨物、書籍管理、ETC、自動車キー、債権/紙幣など、その活用分野は広範にわたっており、分野別のコード標準や手順が登場するのはやむを得ないものと思う。しかしながら、グローバルに拡大している流通サプライチェーンにおけるRFIDの採用は国際標準に準拠することが必須である。

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