インターネットVPNの採用でコストと運用・管理の手間はどこまで下がるか

システム構築において、コスト面でのメリットからインフラにインターネットVPNを選択するユーザーが増えている。しかし、安易な考えでインターネットVPNを採用しても、満足ゆくコストダウンが見込めない場合もある。プラザクリエイトの事例から、選択のポイントを見ていこう。

» 2005年01月17日 17時57分 公開
[ITmedia]

 システム構築において、足回りのインフラにインターネットVPNを選択するユーザーが増えている。インターネットVPNというと、広帯域を低コストで利用可能だが、信頼性では専用線に劣ると思われるかもしれない。しかし現在では、冗長化などで信頼性を高めたソリューションも提供されてきており、選択肢の一つとして十分に検討するに値するものといえる。

 フォトサービスストア「パレットプラザ」を事業の核に据えるプラザクリエイトも、従来利用してきた専用線やフレームリレーから、ソニーが提供するインターネットVPNソリューション「bit-drive」に乗り換えたことで、大幅なコスト削減を実現している。

コスト削減の切り札として目を付けられたインターネットVPN

 プラザクリエイトは、北は札幌から南は沖縄までDPEショップを展開しており、直営店、フランチャイズ店を含めると約1000店舗を有すフォトサービスのリーディングカンパニーである。

 また、同社は2004年7月に、女性のための初心者から始める写真とパソコンの学校と銘打ち、「パレットプラザ クリエイティブスクール イマージュ」を東京・市ヶ谷に開校した。デジタル一眼レフでの撮影や、デジタル加工、データ保存などの技術を学ぶことで、ユーザーの「LIFE ARCHIVES」(人生の記録コレクション)を実現してもらうことが狙いで、デジタル時代における新たな提案を行っている。

イマージュ 人生の余暇を楽しむ場所として、日常を忘れさせる異世界的な空間を演出するイマージュ。導入されているPCはVAIO type S「VGN-S70B」

 同社では、全国のDPEショップを各地域ごとに配置された9つの事業所をハブとし、市ヶ谷にある本社とネットワークで結んでいる。そのネットワークインフラには、専用線やフレームリレー、IP-VPNといったさまざまなものを利用してきたが、いずれも数百万円規模の高額なコストを余儀なくされていた。

 昨今の経済情勢で、「コスト削減」はどの企業にとっても大きなテーマである。これはプラザクリエイトでも同様で、現状の企業活動に影響を与えることなく、かつ、将来的な事業展開も見据え、さらにコストを削減可能なインフラを構築するという困難なミッションがシステムサポート室長の安藤勝之氏に与えられた。

 そこで安藤氏が目を付けたのがインターネットVPNである。当時引いていた回線の契約期間が切れるタイミングでネットワークインフラをインターネットVPNに変更するプランが動き始めた。2004年1月のことである。

安藤氏 「初期コストが、単年度の運用コストの削減分と相殺できなければ意味がない」と選定条件を話す安藤氏

 「3年ほど前からインターネットVPNを提供するプロバイダーが出てきたが、出始めのころは、運用管理のサポートが満足できるものではない、という印象があった。また、ランニングコストは確かに安いが、インターネットVPNに必要な機器自体が高価で、それを調達するとコストメリットが薄いと思っていた」と安藤氏はインターネットVPNに対する印象を振り返る。しかし、2004年の時点では、安価にインターネットVPNを提供するプロバイダーも登場しつつある。プラザクリエイトが採用したソニーの「bit-drive」もその一つだ。では、数あるプロバイダーの中からbit-driveが選ばれた理由はどのあたりにあるのだろうか。

コストダウンは当たり前、顧客のニーズをどこまで理解できているかが重用

 同社がネットワークインフラを既存の環境からリプレイスする際に最も重要視したのは、やはりコストの面である。

「契約期間に長期の縛りがあっては、動きが速いインターネットの技術革新に追随できないため、1年単位で最適なものを選択してきたいという思いがあった。また、初期コストが、単年度の運用コストの削減分と相殺できなければ意味がないので、そこをクリアしていることがサービスを選定するうえで重要な要件でした」(安藤氏)

 bit-driveの採用により、かつては月額で数百万単位だった通信コストが、80%近く削減できたというが、こうしたコストダウンはインターネットVPNのうたい文句でもあり、bit-driveが突出して安価な訳ではない。

 「インターネットVPNが普及してきたことで、ほかの業者でもこのコストダウンは可能だったと思います。bit-driveを採用したのは、ユーザーにとっていい形で対応してもらっている印象があるため」と安藤氏は話すが、bit-driveが選ばれた理由がまさにここにある。

 同社に限らず、全国に店舗を展開している企業では、そのネットワークに専用線などを利用していることが今なお多い。そうした環境をリプレイスすることがいかに面倒な作業であるかは説明するまでもないだろう。つまり、単純な通信コストだけではなく、ネットワークの構築に伴う作業負担も考慮する必要があり、こうした負担をいかに軽減できるかも、サービスを選定するうえでの重要な要件となるわけだ。この部分に対し、顧客と一体となって最適なサービスを迅速に提供しようとする姿勢が評価されているようだ。

 bit-driveの顧客志向な姿勢はデザイン時の提案にも見られる。プラザクリエイトの例では、拠点構成を知らせた時点で、主要拠点に関する冗長構成が提案書に盛り込まれたという。その結果、本社と五反田の事業所は、メイン回線として「FiberLink Premium1」を、バックアップ回線としてADSLを採用した冗長構成を取り、それ以外の拠点については、「FiberLink Light1」で結んでいる。DigitalGateは市ヶ谷に設置されているが、五反田にも既存の回線を利用したリモートアクセス用の回線が存在する。

図1 プラザクリエイトのネットワーク概略図

「環境の設計には、ソニーがこれまで培ってきたノウハウもあり、それほど手間はかからなかった。一番時間をかけたのは手順作りの部分。エンドユーザーの仕事の妨げにならないように、いかにスムーズに展開させるかという点に時間をかけた」(安藤氏)

 実は、プラザクリエイトの例では、地方拠点での作業については本社で手順を作り、地方には作業員を向かわせるという手順を取っている。そのため、手順作りが重要な意味を持つのである。結果として、実際のネットワーク設計に入ったのが4月以降でありながら、稼働が6月からと比較的短い期間でサービスインしている。

「インターネットVPNの採用がコストダウンにつながるのは明白でしたので、1日でも早くサービスインさせたかったのが本音です。デザインからカットオーバーまでの期間が短かったのはありがたい」(安藤氏)

 インターネットの普及でインフラ部分が大きく変わったように、これからもこうした劇的な変化は起こってくることが予想される。そのため、よほどのことがない限り、大幅な投資はしたくないというのが企業の本音だろう。インターネットVPNの導入で、従来より低い通信コストでありながら、より帯域幅を広く、かつセキュリティも確保することに成功した。しかし、これがすべてではない。

見えにくい保守・運用コストをどう考えるか

 インターネットVPNに期待する導入効果は、これまで述べてきたように、やはり通信コストの大幅な削減だ。しかし、通信コストを削減できるという理由でインターネットVPNを導入すると、思わぬ落とし穴にはまることがある。それが、稼働後の保守・運用にかかるコストだ。特に、自社でネットワークを構築し、さらに日常的な保守・運用となるとそれ相応のコストを覚悟しなければならない。

 この部分を見誤ると、必ずしもトータルでのコスト削減につながらないという悲劇を招いてしまう。選択肢としては、投資して人を増やすのか、外部に委託するのかということになるが、外部に委託すると、自社にノウハウが蓄積されにくいというデメリットもあり、この選択は非常に難しい。しかし、プラザクリエイトの例は、むしろ積極的に外部に委託する方向だったようだ。その理由を安藤氏はこう語る。

「ネットワークを専門とする人間を育成することは、わたしたちの企業活動において利益を生むわけではありません。利益を生む仕事を差し置いて、そちらの作業に従事してしまうという事態はできるだけ避けたいと考えており、この部分は外部に委託したいという前提がありました」(安藤氏)

 bit-driveでは、ネットワークの保守・運用はもちろん、リモートアクセスやDNS、メールサーバなどの機能を備えたアプライアンスサーバ「DigitalGate」を利用している場合は、そのアップデートなどもソニー側で対応してくれる。このため、プラザクリエイトでは、専任のネットワーク担当者や管理者を配置することなく、本来行うべき業務に集中させることができた。つまり、インフラの部分の固定費削減だけでなく、保守・運用面でのコストを発生させる必要がないのも大きなメリットだといえる。

「ASP型のサービスがすべて正しいとは思わない。しかし、今実現すべきことにシビアな選択をした結果に選ばれたもの。少なくとも、コントローラーとオペレーターが同一である必要はなく、ネットワークの抜本的な刷新を効率よく実現できた」(安藤氏)

ソニーならではの付加価値にも期待

 サービス稼働後は、大きな問題もなく、安定して稼働しているというが、ユーザーの側からは更なる要望も出てきているようだ。

「DigitalGateでPHPが使えないなど用途が制限されている部分もありますが、企業用途では安定して動作することが重要ですので、それほど問題ではないです。要望を挙げるとすれば、セキュリティ上公開しても問題ない社内システムをDigitaGateに載せ、それも運用・管理していただければすばらしい」(安藤氏)

 また、同社ではインフラの整備と合わせて、勤怠管理のシステムに同じくソニーが提供する「Internet Time Recorder」やセキュアなリモートアクセスを提供する「CRYP」を採用している(関連記事参照)。特にITRに関しては、早い段階で各店舗にも導入しており、従業員には定着したようだ。すでに全国の直営店に配置が完了している。

「ある店舗では、アルバイトが持っているSuicaを使ってITRを利用させたいという声もありました。SuicaにもFeliCa技術が利用されているために可能な話ですが、これがうまく進められれば、確実な個人認証を実現しつつ、カードのコストも抑えることができるので、より自由度の高い運用が可能になると思います」(安藤氏)

 ソニーが展開するさまざまなサービスと組み合わせることで、付加価値が付くのがbit-driveの強みでもある。ブロードバンドの普及により、さまざまな形でネットワークにつながる機会が増えたことで、より先進的なサービスを提供できる可能性は高くなる。ポイントを絞ったサービスの提供ではなく、広い範囲でオールインワンのサービスを提供しようとするソニーへの期待は高い。

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