ThinkPadは中国メーカー製でもThinkPadか

IBMによると、同社の既存顧客にとって状況はこれまでと変わらない――少なくとも近い将来は。

» 2005年02月16日 21時59分 公開
[IDG Japan]
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 ロブ・パールスタイン氏の愛機は「ThinkPad」だ。同氏はこのIBMの人気のノートPC製品ラインとその評判の高いサービスやサポートに満足しており、3台も持っている。友人や家族にもいつもThinkPadを勧めてきた。

 だが、IBMによるLenovo GroupへのPC部門売却を機に、パールスタイン氏にとってこの幸福な関係は過去のものとなった。「売却のニュースを聞いたときに最初に思ったのは、IBMに電話して『やめてくれ』と言うことだった」と、ノースカロライナ州アシュビルに住む登録看護麻酔士のパールスタイン氏は振り返る。同氏は供給体制が完全に変わる前にThinkPadをもう1台買い足すことも考えたが、思いとどまった。「わからないことが多すぎる」と同氏。「保証や技術サポートは誰が行うことになるんだろう」

 パールスタイン氏の心配は、IBMの顧客の多くが抱いているものだ。彼らにとって気がかりなのは、IBMがPC事業をアジアの大手コンピュータメーカーに譲り渡した後に何が起こるかだ。さらに、IBMによるLenovoへの事業売却は、ハイテク産業における中国の台頭という重要な流れを象徴している。

すべてこれまでどおり?

 様子見をしているIBM顧客もいるが、パールスタイン氏のように既に見切りをつけた顧客もいる。「これまでと同じというわけにはいかない」と同氏は予想する。「新会社は品質ではなく価格で競争しようとするだろう」

 IBMはパールスタイン氏のような分析に異を唱えている。同社によると、既存顧客にとって状況はこれまでと変わらない――少なくとも近い将来は。

 売却取引により、LenovoはDell、Hewlett-Packard(HP)に次ぐ世界3位のPCメーカーになり、IBMは新会社に18.9%出資する。Lenovoの本社は北京からニューヨーク州アーモンクに移転する。

 短期的には、IBMのコンピュータを持っている人はあまり違いに気づかないだろう。この取引では、IBMは自社PCの開発、販売、サービス、サポートを少なくとも当面は継続することになっており、IBMは18カ月をかけてThinkPadラインに新機能を導入していく計画も表明している。

 また、新会社はデスクトップPCの「Aptiva」ラインなど既存システムのサポートを当初のサービス条件で継続する。IBMから継承されるシステムには現行の製品名とロゴが少なくとも5年間表示され、Lenovoのブランド名とロゴは段階的に徐々に導入される。

 しかしもちろん、顧客を獲得して維持するためには、名前とロゴ以外の要素も必要だ。IBMのサービスとサポートは好評を博しており、ThinkPadユーザーはサポートを高く評価する忠実な支持者が多い。

 IBMは、サポート面では、既存顧客には売却の影響はほとんど分からないだろうと強調している。「絶対に、必ず、何も変わらない」とIBMパーソナルコンピューティング部門の現サービス・サポート担当副社長でLenovoでも同職に就くビル・オーエンズ氏は約束する。「Lenovoは売却取引前と同じ経営陣、従業員、契約業者の体制で事業を行う」

 つまり、PCの保証条件は変わらないというわけだ。オーエンズ氏は、技術サポートを頼む場合には、顧客は従来どおりのフリーダイヤル番号(800/426-7378)に電話して、売却前と同じくアトランタ州の担当者と話すことになると説明する。この方式は少なくとも5年間は変わらないという。また、Lenovoは米国からの電話に応対する技術者を海外で雇うことを計画しておらず、このことに安心する顧客もいるかもしれない(IBMのサポートページのURLも従来どおりのwww.pc.ibm.com/support)。

 多くの専門家は、IBMがLenovoにPC部門を売却する取引は、高品質なだけでなくお買い得な製品の提供につながると予測する。業界調査会社Gartnerのリサーチ担当副社長レスリー・フィアリング氏は、この売却はまさにいい取引だと語る。「新会社は業務コストを大幅に抑えることができる」と同氏。「Lenovoが提供できる革新的な技術は豊富にある上、合併で実現される業務効率のおかげで、同社は品質やサービスを落とさずに済む」。このため、購入者はより良い製品をより安価に入手できるようになるだろうとフィアリング氏は考えている。

「メイドインチャイナ」のインパクト

 一部のアナリストは、米国のハイテク市場が成熟化し、中国経済が成長しているだけに、IBMとLenovoの取引は今後起こることの前兆だと見ている。IBMの技術者だったウォートン・ビジネス・ スクールの経営学教授マーク・ズバラキ氏は率直にこう語る。「この売却は消えゆくものを象徴している。それは米国のPC企業だ」

 IBMとLenovoの取引がIBMとその顧客にとってうまく運んだ場合、ハイテク市場における中国の役割の拡大は、米国の消費者にとって良いニュースと見るべきかといえば、必ずしもそうではない。ただし、割安なものを買い求める人にとっては、初めは好都合に見えるかもしれない。アナリストは、ハイテク技術が世界的にコモディティ化すれば、コンピュータ会社が業務コストを合理化し、縮小する国内市場で熾烈な顧客獲得競争を展開する中で、製品価格は下落するだろうと予測する。

 それは悪いニュースだろうか。こうした動きが進めば、結局は製品の品質やサービスが犠牲になる可能性がある。「諸刃の剣だ」とフィアリング氏は認める。「米国のPC市場が圧迫されれば、価格戦争を繰り広げるベンダーは、後で自分の首を絞めることになる領域(製品の革新やサービス、サポートなど)をないがしろにしかねない」

 あなたがハイテク製品の購入を考えているとして、1〜2年後にあなたが電話をかけたときも米国内にある企業から買うにはどうすればいいだろう。もちろん、あなたの購入先が今の場所を引き払って海外に出て行かない保証は決してないが、置いてきぼりを食わないように手を打つことはできる。

 これはありきたりのアドバイスだが、改めて紹介するに値する。まず、製品を買おうとしているハイテク企業をできるだけ知ることだ。さらに、その企業の財務状況も大まかに調査し(www.hoovers.comのようなサイトは財務レポートを有料で提供している)、買う前にその企業に直接コンタクトして技術サポートを実地にチェックする。中国語を勉強し直すのはそれからでいいだろう。

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