特集
» 2006年01月11日 09時00分 公開

企業のための法律相談:怪しい個人発明家から自社特許への異議申し立てが、どうする?

ある個人発明家のM氏から、自社の特許が彼が過去に取った実用新案権に抵触すると言われました。M氏の実用新案権の買い取りを要求されているのですが……。

[第一法規]

lalalaw当社はボールベアリングの特許申請をし、この度、出願公告の運びとなりました。
 しかし先日、ある個人発明家のM氏から当社特許は、M氏が過去に取った実用新案権に抵触するといってM氏の実用新案権の買い取りを要求してきました。当社はこれを断ったところ、先日、特許庁から特許異議申立書の副本が届きました。


lalalaw貴社は、可能な限りM氏の素性を調査するとともに、M氏の要求の真意を探り、その実用新案権の登録の有無、効力、内容、貴社の特許権の技術的範囲の同一性の有無、程度などを異議申立理由、証拠およびそのほかの資料から詳細に調査し、対応策を決定する必要があります。貴社の特許権とM氏の実用新案権が抵触するおそれがないのであれば、そのままの状態で特許権維持決定が出され、異議申立手続きは終了します。しかし、貴社の特許権とM氏の実用新案権とが抵触するおそれがあるのであれば、理由書の提出、訂正請求を検討する必要があります。

解説

1.特許異議申立制度とは

 特許異議申立制度とは、特許に対する信頼性を高めるために、公衆に対して一定期間内に限り異議の申し立てを認め、特許庁が自ら下した特許処分の是非について再検討を行おうとするものです。

 異議の申し立ての時期によって、

  • 特許付与前の特許異議申立制度(出願公告の日から3カ月以内)
  • 特許付与後の異議申立制度(特許権の設定登録後の特許掲載公報の発行日から6カ月以内)

がありますが、平成6年の特許法改正によって、特許付与前の特許異議申立制度は廃止されました。これは、特許権設定の登録前に一律に異議申立期間を設けることは迅速な権利付与の要請に反するためです。

 ただし、経過措置の関係で施行日に特許庁に係属中の特許出願での場合には、平成8年1月1日において出願公告決定の謄本の送達がされているものは改正前の規定が適用されるので、特許付与前の特許異議申立が可能となります。

2.権利関係などの調査

 特許異議申立制度は、特許庁に見直しの機会を与えようとするものですから、誰もが特許異議申立人となることができます。ですから素性の分からない者からの異議申立も十分ありうることです。

 この場合には、まず、特許異議申立人の意図を推察することが必要ですが、ご質問の場合のM氏は、実用新案権の買い取りを求めているので、積極的に実用新案権の対象となっている考案を実施する意図はなさそうです。そこで、貴社は、可能な限りM氏の素性を調査するとともに、M氏の主張する実用新案権の登録の有無、効力、貴社の特許権の技術的範囲の同一性の有無・程度を異議申立理由、証拠とそのほかの資料から詳細に調査する必要があります。

3.特許維持決定

 その結果、M氏の要求が貴社の特許権にとって何ら脅威とはならないものならば、あえてM氏の相手をする必要はないでしょう。特に、付与後の特許異議申立の場合には、そのまま特許異議手続きは終了し、審判官の特許維持決定がなされます。M氏は、この維持決定に対して不服を申し立てることができず、後は無効審判の申し立てをするか否かを判断するほかなくなりますが、それが認められる確率も当然のごとく著しく低いものでしょう。さらに、貴社としてはM氏に特許異議の申し立ての取り下げを要求すべきでしょう。

4.意見書および訂正請求

 しかし、M氏の要求が貴社の特許権にとって脅威となるものであれば、真剣に対策をたてなければなりません。特許異議申し立てについての審理の結果、取消決定がなされる場合には、あらかじめ特許庁から取消理由が通知されるので、取消理由を解消するための方策を検討しなければなりません。貴社としては、取消理由を解消するための論理的説得力のある理由と証拠を精査して、特許異議意見書を作成しなければなりません。その際特許異議意見書には、審査基準、審決例、裁判例などを引用することも心がけましょう。

 また、取消決定を覆すほどの説得力がない場合や特許権の安定化のために必要があると判断した場合には願書に添付した明細書または図面の訂正請求をすることが必要です。もっとも、訂正請求の時期は意見書を提出する期間に限定されており、訂正事項も、

  • 特許請求の範囲の減縮
  • 誤記または誤訳の訂正
  • 明りょうでない記載の釈明

に限定されていますので特に留意が必要です。

 なお、付与後の異議申し立てについては、特許権者は、異議申立書副本が送付されてきても、特許審判とは異なり、一定期間内に答弁書を提出する必要はなく、特許庁から取消理由が通知されるまで、何もしないでいることもできます。しかし、特許異議申立書の副本の送付から取消理由の通知までの期間を無駄にすることは得策ではなく、至急、前述のことを調査、検討し、十分な対応策を構築しておくとともに、場合によっては、特許庁に対して上申書などを提出して審判官の注意を喚起することも大切でしょう。

 そして、特許出願に際しての技術資料の十分な調査を行うことが最大の予防策でしょう。特に、現行特許法では、補正や訂正が厳格に制限されているのでなおさらです。

編集部注:特許異議申立制度は、平成15年の法改正により特許無効審判制度に統合されたため、現在では廃止となっています。特許無効審判制度に統合されたことで、基本的には誰でも特許の有効性について争うことが可能となりました。併せて、特許の権利が切れた後でも請求することが可能となっています。

●参考法令
特許法113(特許異議の申立の意義)
特許法114<4>、<5>(特許維持決定)
特許法120の4<1>(取消理由の通知と意見書)
特許法120の4<2>(特許権者の訂正請求)

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