MotorolaのLinux携帯に失望するサードパーティー開発者Trend Insight

Motorolaがスマートフォン携帯を組み込みLinuxに移行したことは、同社にとっては「当たり」でも、エンドユーザーには「外れ」だったのだろうか。

» 2006年02月13日 11時27分 公開
[Nathan-Willis,japan.linux.com]
SourceForge.JP Magazine

 Motorolaが、スマートフォン携帯を組み込みLinuxに移行するという構想を最初に発表したのは2003年のことだった。その第一弾として市場に登場したのは、同年の第4四半期に出たA760だった。現在では機種の数は10以上になった(市場の違いやハードウェアの微妙な差に伴う製品番号の違いによって数は異なる)が、サードパーティーのアプリケーションや開発者を取り巻く総合的な環境は現時点でも整備されていない。MotorolaがLinuxに移行したことは、同社にとっては「当たり」でも、エンドユーザーには「外れ」だったのだろうか。

 これらの端末向けの開発がまったく行われていないわけではない。MotorolaFans.comには、興味を抱いたLinuxハッカーたちが集まった、かなりアクティブなコミュニティーがあるし、GPL-violations.orgの著名なハラルド・ウェルテ氏は、これらの端末向けの完全にフリーな代替環境を開発することを目指したOpenEZXプロジェクトを立ち上げたりもしている。だがMotorolaは、プログラマーたちがこのプラットフォーム向けの開発を行うことを促進するのではなく、逆に阻害しているように思えるのだ。

カーネル

 カーネルのソースを例に挙げてみよう。Motorolaは、こうした端末の製造で、組み込みLinuxベンダーのMontaVistaと提携しており、人気の高いA780とE680の両端末では、Linux 2.4.20カーネルと標準ライブラリを使用している模様である。だがMotorolaFans.comのとある開発者の体験談によると、E680のソースコードをMotorolaに要求したところ(GPLの定めにより、Motorolaにはソースコード提供の義務がある)、面倒な手順を踏まされたとのことだ。2カ月にわたって電子メールを何通もやり取りしたあげく、Motorolaからのコード提供は、電子的な転送手段ではなくCDでのみだったという。しかも、CDが届くときに、Motorolaからはその価値は200ドルであるとのお達しがあったため、その開発者は税関に行って輸入税を支払ってようやく受け取ることができたという。

 こうして、やっとのことで入手したソースコードには、当然ながら、目を引く幾つかの発見があり、サイズやメモリ使用を最適化できそうな部分も多数あった。Motorolaにとっては朗報のはずだ。ウェルテ氏のOpenEZXプロジェクトでは、このデバイス向けに2.6系のカーネルをビルドすることを目指している。また、ファイルシステムのサポートを追加したカーネルをコンパイルしたり、SDカードを使用して追加的なハードウェア向けのドライバの組み込みを試みている人もいる。

 現在、SourceForgeでは、E680用A760のソースを入手でき、MotorolaFans.comのフォーラムでは、端末を内部的に操作するための手順が説明されている。そして、bashのプロンプトを表示して、特定のコマンドライン・プログラムを実行できるようにもなっている。だが、これらの端末のユーザーの大半が望んでいるのは、標準のグラフィカル環境で新しいアプリケーションが動作するようになることだ。

アプリケーション

 Linuxdevices.comが伝えた、Motorolaの幹部であるマーク・バンデンブリンク氏の話によると、携帯キャリア側の懸念により、Motorolaとしては、これらの端末向けのネイティブ・アプリケーションの開発には興味がなく、開発者たちには、内蔵のJava仮想マシンを使用してほしいとのことだ。

 これと対照的なのがSymbianだ。Symbianでは、同社のすべての携帯プラットフォーム向けに、フリーのドキュメントとソフトウェア開発キットを提供しており、サードパーティーによる開発を促進している。Microsoftも、Windows Mobileで同じ路線を採っている。

 ユーザー空間では、Motorolaが選んだのはTrolltechのQtopiaとQt/Embeddedであるが、端末の主要なアプリケーションは、EZXという追加的な層の上に構築されている。そしてこのEZXは一般に公開されていない

 このため、Trolltechのツールチェーンがあり、カーネルのソースも利用できるにもかかわらず、MotorolaFans.comの開発者たちは、これらの端末で動作する独自のQtアプリの開発には成功していない。端末のリムーバブル・フラッシュメモリカードから、PDA向けにビルドされたOPIEディストリビューションを動作させることに成功した開発者もいるが、そのためには、端末の電話機能をシャットダウンして、電話としての使用をあきらめる必要がある。これは、適切な代償とはとても言えない。

疑問点

 おそらくMotorolaは、携帯電話にLinuxを使用することで、ライセンス料を節約できているであろう。だが、Linuxへの移行を最初に発表してから3年が経った現在でも、ユーザーたちが独自のメリットを明確に認識できるには至っていない。

 確かに、GPLの下では、Motorolaは、端末のユーザーから要求されたときに、自らが使用したソースコードを配布する義務があるが、それを喜んで行う義務はなく、ましてや促進する義務もない。解せないのは、Linux開発者たちを自社製品に吸い寄せることのメリットに、Motorolaがなぜ気づかないのかということだ。

 TiVoZaurusなどのコンシューマー向け製品では、オープンソース・ハッキングを促進することで付加価値が高まったというのが最近見られる事例である。しかも、Motorolaの直接の競合相手であるSymbianとMicrosoftは、サードパーティー・ソフトウェアの価値を高めるという点では、大きく先んじている。これらのプラットフォームのユーザー向けには、サードパーティー製のアプリケーションの検索、ダウンロード、使用に特化したWebサイトが多数ある。

 意欲にあふれた開発者たちが自分たちのプラットフォーム向けにソフトウェアを開発することを阻害して、Motorolaにいったい何の得があるのだろうか。それが大いなる疑問だ。

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