「地方自治体に金はない、残されているのは時間だけ」――長崎県激変! 地方自治体の現実(2/4 ページ)

» 2006年04月21日 09時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

地場企業への発注は本当に可能か?

ITmedia オープンソースを使うのはなぜですか?

島村 地場企業がプロプライエタリなソフトウェアでビジネスを展開しようと思えば、まずそのソフトウェアについての講習を受け、さらに社内で試用するためソフトウェアを購入、そして保守費を払うなどして、ようやく体制が整うのです。そう考えると、ソフトウェアは企業規模に関係なくビジネスができる、とよく言われますが、実際地場企業くらいの規模からすると、はじめから参入障壁が存在しているのです。これもシステムの価格が高止まりする理由です。

 ではどうするか。行政側がお金を負担して講習会などに行かせても意味がありません。本当に地場企業に実力をつけさせたいのであれば、行政側が努力して地場企業が受注できる体制を作ることが大事であり、地場企業の自立を促していくことが重要です。これを解消しようと思えば、オープンソースを使わざるを得ない、という判断になるのです。

 地場企業への発注を推進する、と行政側が言うと、これまで大手ベンダーの独壇場だった仕事を地場企業にも分け与えるようにすることだと思われがちですが、わたしたちは、地場にお金を落とすためではなく、人材を育てたいからこうした取り組みを推進するのです。「人を育てる」というのは、「開発ができる」ことと同義ではありません。開発も設計もできる、という人材を育てなければ意味がありません。

 自治体における業務システムの人材は外に求めるべきだと思いますが、現実的に多くの自治体で行われているのは、単に丸投げしているだけで、いっしょになって取り組んでいこうだなんて思っていません。行政と民間がもっと歩み寄り、どうすれば一緒になって仕事がしていけるかを考える必要があります。

ITmedia それが長崎県が考える「ながさきITモデル」ですね。実際にそうした取り組みを進めた結果、ここ数年で地場企業への発注率はどう変わりましたか。

島村 開発は地場企業が中心となり、2002年度から2003年度にかけては100件中48件が、2004年度は96件中73件が地場企業への発注となりました。だいたい10社程度が中心となって受注しています。ほかの自治体でも地場企業へ発注しているとは言いますが、実際には大手ベンダーの地方営業所であったりします。本当の意味での地場企業の発注率は全国平均で1%を割っているでしょう。

 ここで強調したいのは、金額ベースでも15.1%だったものが32.7%と約2倍になっていることです。

ITmedia ながさきITモデルではおおむね500万円以下の分割発注方式を取り入れていますが、これはどういった意味があるのでしょうか。

島村 システム構築は間違いなく人が重要であると考えています。大規模な案件になると、大手ベンダーでは幾人もがそこにかかわるため、実際にシステムを構築している末端の人の顔がまったく見えなくなります。人を育てると言いながら人に目を向けていないという矛盾が生じるのです。500万円くらいの案件なら、発注者と受注者の距離を縮め、信頼関係を構築しながら進めていけるのです。

 地場企業は実力がないわけではありません。大手ベンダーの下請けをこなしているため実力はあります。しかし、言い換えれば実力しかないとも言える。大事なのは顧客と話をする折衝能力ですが、そうしたチャンスを創出することが必要なのです。

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