「地方自治体に金はない、残されているのは時間だけ」――長崎県激変! 地方自治体の現実(3/4 ページ)

» 2006年04月21日 09時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

「行うべきは業務」――立ち位置を見誤らないために

ITmedia オープンソースについての見解をもう少し聞かせてください。オープンソースの適用範囲も広がっていますが、オープンソースの適用が難しいと思われるシステム領域はありますか?

島村 オープンソースの適用が無意味だと思われる領域はあります。例えば電子署名の署名ライブラリです。これを一生懸命開発し、オープンソースにしても誰も価値を見出してくれないのではないでしょうか。こういった部分は買ってしまった方が早いですし、実際、長崎県庁でも署名ライブラリのエンジン部分はそうしています。

ITmedia 長崎県電子県庁システムではどんなOSを使っているのですか。

島村 CentOSです。長崎県のように中央と距離が離れていると、障害発生時にベンダーに改修要望を出しても、数日掛かることも珍しくありません。また、営業を経由することで意思の疎通が図られていないことなども往々にして起こります。これはハードウェアについても同様です。

 1秒間に3000トランザクションが発生するような環境、いわゆるミッションクリティカルな環境で発生するような問題に対しては素早い対応も期待できるでしょうが、長崎県電子県庁システムはそうした環境でもありません。つまり、実際にはどのLinuxディストリビューションでもそれほど問題はないわけで、むしろ、CentOSで何がいけないのですか? とわたしたちからの解としてお聞きしたいほどです。

ITmedia スケジューラなどはCurlで記述されているようですが、リッチクライアントについてはどう考えていますか?

島村 コスト削減のためにシステムのWeb化を推進する自治体もありますが、処理ごとにサーバサイドへ問い合わせしていては、サーバやネットワークの肥大化を招きます。行うべきは業務であるのに、業務以外に投資を重ねていかなければならないような環境を構築しては本末転倒でしょう。

 ほとんどの処理をクライアント側で行えるリッチクライアントに注目しているのは、技術だけでサーバやネットワークの負荷も押さえることができるからです。もっとも、サーバの性能やネットワークの帯域は時代とともに向上するので、操作性を重視し、クライアントとサーバをセットで提案するベンダーもありますが、そうしたソリューションの採用は考えていません。

ITmedia 業務システムをオープンソースとして公開したことで、ほかの自治体がそれを利用すれば、そうした構築に設計段階からかかわってノウハウを蓄積した地場企業にとってもありがたい話ですね。

島村 もちろんそうしたことを考えてオープンソースで公開しているわけで、いわゆるバザール型の開発モデルを期待して公開しているわけではありません。コミュニティーについて言えば、特に地方のビジネスでは、そこ(オープンソース)に勝機があるのならそれでビジネスをしたいと思うだけで、そこに集まる人も仲のいい友達ではなく、言わばライバルなのです。これではコミュニティーに期待してもいい結果は生まないでしょう。

 現実的には、オープンソースで公開されたからすぐに使う、という自治体はいないでしょう。しかも、現在公開しているものは、年次休暇システムなど、それを導入したからといって自分たちの根本的な問題が大きく変わるわけではないものが中心です。わたしや地場企業への問い合わせは幾つかありますが、まだ様子見といったところでしょう。今後、電子決裁システムやスケジューラなどが公開されれば、もう少し検討も進むのではないでしょうか。

システム名 概要説明
ながさきミュージアムネットワークシステム 長崎県美術館・長崎歴史文化博物館システム(EJB)
電子決裁システム 会議開催伺いなどの一般的な決裁を電子的に行うためのシステム
ネットワーク監視システム サーバ、ネットワーク機器の稼動監視
スケジューラ リッチクライアント言語を使って開発したWeb版スケジューラ
統合メインメニュー 各庁内庶務システムへの共通メニュープログラム
年次休暇システム 服務規程に基づいた休暇届けの電子申請システム
WEB職員録システム 検索機能を持ったWeb職員録システム
データベースダンプ(MySQL) 上記システムに必要なテーブル定義ファイル
文書保管システム 電子決裁システムで申請された文書を検索・閲覧するシステム

これまでに公開された長崎県電子県庁システム

編集部注:このインタビュー後、電子決裁システムなど4システムが追加で公開された(関連記事参照)


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