「多くの自治体は、このままでは確実に経済破たんする状況にある」――長崎県総務部参事監の島村氏はそう話し、地方自治体における地場産業の活性化に必要なのは県庁職員の意識改革とオープンソースであると話す。
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自治体にとって地場産業の活性化は重要なポイントであるはずだが、実際にそれを実践できている自治体は少ない。IT調達の現状を見ても、地場企業が受注しているケースは非常にまれである。
それは行政側の努力が足りない部分があると話すのは、長崎県総務部参事監の島村秀世氏。長崎県は業務システムにオープンソースを導入し、地場企業が参加する機会を積極的に創出していることでも知られている。同氏に自治体は電子自治体化をどう考えるべきか、また、オープンソースはそこにどう寄与するのかを聞いた。
ITmedia 業務システムにオープンソースを導入したことによるここ数年の成果を振り返っていただけますか。
島村 わたしが民間から入庁した際、知事から「電子自治体の構築には数百億必要だとも言われているが、この金額は長崎県の現状とあまりにかけ離れている。これを安価に構築できるようにしてほしい。加えて、そこに地場企業が参加できるようにしてほしい」という2つのミッションを与えられました。
ここで強調したいのは、確かにわたしたちはオープンソースソフトウェアでシステムを構築していますが、オープンソースを使ったから安価にシステム構築できる、というのはナンセンスな議論です。安くできるのは、結果として保守費が発生しないようなシステムを構築するから、もしくは、地場企業が参加するから全体として中抜きが発生するために可能となるのです。オープンソースを使っているというのは、実は別の次元の話です。
ITmedia 自治体のシステムは高いとよく言われますが、高止まりするのはなぜでしょう。
島村 システムの価格が見積もられるまでの流れを考えてみると答えは明らかです。まず、ITベンダーの営業が顧客に対してヒアリングを行い、それに基づいて「自分のスキルならおよそ何人月で構築できるか」をおおざっぱに計算します。そこから詳細化率、リスク率、利益率を掛けたものがシステムの値段となるのです。つまり、ITベンダーが提示するシステムの価格が高止まりしているのは、顧客が提示してくるあいまいな仕様書――たった数枚のこともあるでしょう――を読み解く作業量と、あいまいさに潜むリスクが掛け合わさっているためです。
いわゆる人月の部分は、能力の高いSEを連れてくれば確かに変動させることができます。しかし、ここに執着し過ぎると、「地場企業に発注するのは危険ですよ」という話になりがちで、結果として開発ノウハウを持つ大手ベンダーに一括発注してしまうことになるのです。しかし実際には、詳細化率とリスク率を下げることを考えた方が、結果としてシステムの値段は下げられます。行政側がそうしたことを見据えず、「高い、高い」と言っていても意味がないのです。ベンダーからするとそれは適正な値段なのですから。
ITmedia 県庁職員がシステムについて理解を深め、詳細なRFP(提案依頼書)を出すべきであるということですか?
島村 わたしたちはこれまでSEの方がプロであると思っていましたが、実際はそうではありません。彼らはシステムに関しては確かに強いですが、業務に関しては素人です。このため、SEが無駄のない業務用件を詳しく、かつ正確に定義することなど不可能です。こうした状況では安価なシステムなど作りようがないというのが現実なのです。
これを解決するには、行政側と開発者が歩み寄り、お互いが強い部分を補完し合い、一緒になって仕様書を練り上げていく必要があります。県庁職員は業務を正しく遂行することが仕事であり、システムの知識を伸ばすことに意味はありません。しかし、どのようなシステムをどう作ってほしいかをその基本設計書から詳細設計書まで県庁側が中心となって作り込み、発注前にあいまいさの少ない仕様書を完成させることは重要です。そうすることで、大手ベンダーと地場企業が同じ立場で競争できる環境ができるのです。
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