オープンソースが発展途上国にもたらす機会の拡大とその障害

発展途上地域がオープンソースソフトウェアの最大のマーケットであるのは確かだが、これらの地域で活動しているオープンソース開発者はあまりに少ない。オープンソースそのほかを活用して発展途上国の生産性を高めるにはどうすればよいのだろうか。

» 2006年04月27日 13時38分 公開
[Jay-Lyman,japan.linux.com]
SourceForge.JP Magazine

 United Nations University(UNU)の研究者からの報告によると、オープンソースソフトウェアの利用および開発活動には発展途上国の政府を動かすだけの可能性が秘められているが、そのためには、これらの国々の人間がこうしたテクノロジーの開発側に参加する必要があるという。UNUの当局者によると、中国、東アジア諸国、インド、南米諸国などの発展途上地域がオープンソースソフトウェアの最大のマーケットであるのは確かなのだが、これらの地域で活動しているオープンソース開発者はあまりに少ないとのことである。

 UNU International Institute for Software Technologyの責任者であるマイク・リード氏によると、Windowsシステムのコストはこれら地域における1年半分の給与に相当するため、プロプライエタリ系のソフトウェアモデルは適していないとのことだ。実際、これら発展途上国で使用されているプロプライエタリ系ソフトウェアは、その90%もが海賊版ソフトなのである。

 UNUの推計によると、オープンソースソフトウェアの70から80%が発展途上国で使われているのに対して、FOSSコミュニティーの開発者でこれらの国に属している人間は2%にすぎない、というのがリード氏の説明だ。「わたしどもが取り組んでいるのは、これらの国の人々が単なる消費者ではなく、制作者となるための訓練を提供することです」と同氏は語り、Global Desktop Projectという名称で進められている東アジア地域におけるオープンソース開発者の育成構想に言及した。同プロジェクトには、企業や政府など19のパートナーが参加しているという。「わたしどもが目指しているのは教育と訓練を提供することですが、そのためにもオープンソース開発者のコミュニティーの形成を進めているのです」。

オープンソースは唯一の解答とは限らない

 確かにオープンソースは成熟段階を向かえてさまざまな用途で使われるようになっているが、経済的な不利益を被っている人々にとっての理想的なソリューションとは言い切れないのではないか、という声も聞かれる。

 マーケットリサーチ業務で知られるFrost & Sullivanで上級アナリストを務めるMukul クリシュナ氏は、「オープンソースは貧者のWindowsではありません」という意見を取り上げ、「そしてこうした意識こそを、啓もう活動によって変えてゆく必要があるのです」と語っている。

 クリシュナ氏は、オープンソースソフトウェアは発展途上国でこそ必要とされており、その価値を発揮できるとしている。「こうした安価な方法は、デジタルデバイドを解消するためのリソースが限られている発展途上国に適している」と同氏は語り、オープンソースはまた、発展途上国で懸念されるプロプライエタリ製品による市場の独占を回避する上でも有効であると付け加えている。

 ただしクリシュナ氏が強調するのは、オープンソースのソリューションや開発だけに固執すると、これらの国々がそのほかのリソースにアクセスする道を閉ざしてしまう危険性があり、プロプライエタリ系のソリューションや企業およびそこに集まる資金を利用できなくなるかもしれない、ということだ。「さまざまな人間が意見しているのは、プロプライエタリ系のソリューションを使うことは多くの機会を持たらすのに、オープンソースへの指向が強すぎると、そうしたチャンスを逃すかもしれない、ということです」と同氏は語る。「要は、特定の物事に執着することや、宗教論争化してしまうのを避けることですね。来る者は拒まず、としておけば良いのです。今は多くの選択肢が存在する時代なのですから」。

 またクリシュナ氏が指摘するのは、プロプライエタリ系ベンダーから得られるオファーの大きさであり、プロプライエタリ系の大企業の活動によって発展途上国には多くの雇用の機会などがもたらされているという点だ。

 UNUのリード氏も、巨大企業からの貢献を得る必要性に注目しており、Global Desktop ProjectのパートナーにはIBM、Intel、Sun Microsystemsなどの大手企業が名を連ねていると語っている。また同氏が指摘しているのは、Microsoftなど各種の巨大企業がオープンソースの存在によって企業戦略の変更を余儀なくされている現状であり、一例としてセキュリティ上の理由からMicrosoftが一部の政府系カスタマー向けにコードを公開した事例を取り上げている。

 リード氏が主張しているのは、発展途上国がオープンソースを活用したところで、プロプライエタリ系のソリューションや支援を利用できなくなる訳ではない、ということだ。「わたしどもは、何も戦争をしているのではありません」と同氏は語り、「極力、“敵か味方か”式の考え方は避けることにしています」としている。

 その一方でリード氏が信じているのは、オープンソースそのほかを活用して発展途上国の生産性を高める最善な方法は、これらの開発能力を当該地域において育成することにある、という点だ。「わたしどもが目指しているのは、現実社会での使用に耐えうる現実的なプロジェクトを立ち上げることです」と同氏は語り、具体例としてブラジルや東南アジア諸国を取り上げている。

 クリシュナ氏によると、こうした発展途上国でのソフトウェア開発が不活発であるのは、多くの人間が自身や家族の生活を支えるための仕事に時間を割かれていることに原因があるという。

 また同氏は、業界アナリストとしての観点から、ソフトウェアこそは新規参入者に対する障壁が“極めて低い”テクノロジー分野であると語っている。

 「問題は教育です」とクリシュナ氏は語る。「こればかりは、各国の政府が自分たち自身で取り組まなければなりません」。

 クリシュナ氏が語っているのは、中国やインドなどの地域では、オープンソースソフトウェアが成功への要因の1つとなる可能性があるということだ。そして同氏が非難しているのは、サハラ以南のアフリカ諸国に対する関心の欠如であり、これらの地域は技術力および経済力の開発において「完全に忘れ去られている」としている。

 リード氏は、Global Desktop Projectが中国、東南アジア諸国、ブラジルなどである程度の成功を収めているとしつつも、アフリカ諸国については、IT開発や経済的機会の育成においてまったく俎上(そじょう)に載せられていないことを認めている。ただしオープンソースは実際に北欧地域での開発および経済活動を促進しており、そうした牽引力はアフリカ諸国を含めた発展途上国でも発揮できるはずだ、というのがリード氏の意見だ。

 「こうしたものは、ほかに例がありません」と同氏は語る。「いったんコミュニティーに参加してしまえば、基本的には誰もが平等な勝負ができるという世界です。わたしどもが試みているのは、こうしたコミュニティーに参加する方法を教えましょう、ということなのです」。

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