そんな混乱の中、感染マシンはネットワークから切り離すよう周知がなされた。レジストリの対応ができる運用担当は、自分のPCに関しては自力でシステムの復旧を行い、ローカルのadministratorに新しいパスワードを設定していった。
そうこうしているうちに、クライアントPCで採用されているウイルス対策ベンダーから、待ちに待った定義ファイルがようやく公開された。社内ネットワークの混乱は継続していたため、検証用の別ネットワークから定義ファイルを入手し、各担当者がシェアしてそれぞれのPCに適用していった。
このような状況でも、自分が管理するシステムがUNIXであったために、今回のウイルス騒動の蚊帳の外でいられたメールサーバの管理者がいた。彼は、慌ただしく対応に追われるウイルス対策チームを助けるつもりで、ウイルス対策ソフトがワームを発見した瞬間のスクリーンショットを撮ってくれた。
件名に「捕まえました!」とあったそのメールは、なぜか少し誇らしげにも感じられた。ネットワークに接続したままでウイルスを感染させる大胆さに驚いたが、もともと人柄の良さに定評のある好人物である。お礼を言うのもおかしいし、注意もしにくいし、などと迷っているうちに、わたしのもとにウイルス対策ソフトベンダー担当者から、申し訳なさそうな電話が入った。
「先ほど公開した定義ファイルなんですが、Mumuの感染を引き起こすすべてのファイルに対応できていたわけではないみたいです」
その連絡を受けたわたしは、すぐさま周囲にも聞こえるように大声で統括担当に報告を入れた。
わたし:「さっきの定義ファイルは、ワームに対して完璧には対応できていないそうです!」
「はっ!」叫んでから気付いた。ということは、わざと感染させたあの担当者のPCはどうなるのか? 心配になり、あの担当者を目で追ってみると・・・・・・。そこには真っ青な顔をして固まっているメールサーバ担当者の姿があった。
やはり感染してしまった様子で、なんとか数分でショックから立ち直り、悲しそうにシステムの復旧作業に取りかかっていた。この騒ぎが収まったら、彼にはできるだけの協力をしよう。わたしはそう心に誓った。
各拠点のシステム管理者を指導する立場にある運用のプロ集団でさえ、このようなありさまだった。もちろんユーザーの被害は悲惨なもので、定義ファイルの対応の遅れも重なり、ネットワークの復旧は翌日に持ち越される結果となった。
その後、OSの脆弱性を利用するウイルスが登場したこともきっかけとなり、ウイルスも含めたセキュリティの対策を専門とする部隊が組織されることになった。結局、なぜかわたしがそのメンバーになってしまうのだが、その部署へ異動となってからも新種のウイルスとの戦いは続いたのだった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.