現場の視点で見る災害対策(1):現状分析から対象設定までディザスタリカバリで強い企業を作る(2/3 ページ)

» 2006年09月08日 16時45分 公開
[小川晋平,ITmedia]

●災害対応の時系列フェーズ

 事業継続とディザスタリカバリの関係を知る上では、中央防災会議が2005年8月1日に発表した「事業継続ガイドライン」(PDF形式)に記載されている図が分かりやすい。

図1●事業継続計画(BCP)の概念(出典:事業継続ガイドライン、中央防災会議)

 図1の赤い線に着目すると、時間軸に対してS字カーブを描いている。これは2つのフェーズに分けて考えることができ、「災害が発生した直後に許容限界以上のレベルで事業を継続させるためのフェーズ」と、「その後主要な業務を復旧させていくことで操業度を上げていくフェーズ」に分けることができる。

 広義のディザスタリカバリでは、双方のフェーズともに完全に事業が復旧するまでを対象としているが、一般にディザスタリカバリというと、前者にだけ着目することが多い。これは、最初のフェーズで行うべきことが会社として最も優先度が高く、復旧に迅速性が求められる一方で、後者には何らかの代替手段があったり、重要度そのものが低かったりするために、ある程度時間をかけて復旧してもよいという条件があるからである。

●BCPと災害対策の包含関係

 BCPと災害対策(ディザスタリカバリ)の関係を整理すると図2のようになる。先に述べたとおり、ディザスタリカバリは、会社の事業継続という大きな取り組みの中の1つという位置付けになる。

図2●BCPと災害対策の包含関係

●自社の現状の環境を知る

 最初に必要なのは、自社の現状の環境を知ることだ。

 何らかの災害が起きた場合のことを考えて、システム稼働に必要な要素とシステム設置場所およびその周辺環境を十分に見直してみる。必要な要素としては、電力、水、燃料供給、上下水道、食料、光ファイバの敷設経路、無線通信事情、サージ対策、ディザスタリカバリ(DR)サイト側のワークスペース、DRサイト側に事前設置したPCの定期的なウイルス対策などが考えられるだろう。また、システム設置場所およびその周辺環境に関しては、建物自体の耐震/免震/制震対策、地盤、航空航路外かどうか、近くの河川、海岸線からの距離、標高、近くの幹線道路、主要交通機関、周辺住民への建物の開放とセキュリティゾーン設計、マシンルームの設置階といった要素が含まれる。

 このプロセスを経ることで自社の現状の強み、弱みを明らかにすることができる。また、このプロセスを踏まえて、次に説明する想定災害の決定を行えば、各想定災害に対してどのような被害を受けることになるかが分かるため、リスクの可視化に一歩近づくことにもなる。ちなみに、これらはデータセンターを選定する場合のチェック項目としても使える。

●想定災害の決定

 ディザスタリカバリを考えていくに当たって最初に考えなければならないのは、想定災害である。これは、考えられるあらゆる災害から守ることを考えるのか、それとも、ある一定以上の災害に対し、その時考えられる知恵を絞って復旧の道を模索するのかといった、会社としての大方針とも重なる。

 例えば、金融や医療施設、製薬/医療機器メーカー、エネルギー関連、上下水道、通信といった、災害時にこそ社会的意義が高い事業を行っている企業や団体ならば、当然ながら考えられるすべての災害を想定に入れておくべきである。

 筆者のお勧めは、どんな事業を行う会社であれ、一度は考え得るすべての災害を想定しておくことである。追って紹介する「ディザスタリカバリ対象の限定」のフェーズにおいて投資対効果を考え、現実的に対応できる対象を絞るために、あえて想定災害を絞り込んで、対象システムを減らすような誘導はしない方がよい。

 考えられる災害には大きく分けて「自然災害」と「人為災害」およびそれらの「複合災害」の3つがある。

種類 具体的な災害の内容
自然災害 地震、津波、台風、豪雨(洪水;河川はんらん;浸水、土石流)、崖崩れ、豪雪、なだれ、ひょう、落雷(サージ、火災:山林など)、火山噴火(降灰、火砕流、火災、溶岩流、泥流)、地面陥没、渇水、伝染病の蔓えん、隕石
人為災害 土木事故(ファイバカット、電力線カット)、原発事故、ガスタンク事故、化学プラント事故(有毒ガス)、電力供給危機、上水道供給危機、細菌研究施設などの事故、エネルギー供給危機、タンカー事故(海洋汚染)、飛行機墜落、火災、テロ、戦争
複合災害 自然災害と人為災害の複合(渇水→上水道供給危機など)

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