eDonkey2000の閉鎖に見るコミュニティー中心コンピューティングにおけるオープンソースの問題点Magi's View

完全な分散型ネットワークモデルの先駆者だったeDonkey2000が失敗に終わった原因は何だろうか。クローズネットワークとオープンソースの比較も交えて考えてみたい。

» 2006年10月24日 08時00分 公開
[Nathan-Willis,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine

 雑誌の山に埋もれて忘れ去られている古いバックアップ・ディスクのどこかに、eDonkeyファイル共有クライアントのコピーがまだあるはずだ。先月、このソフトウェアを開発した米MetaMachineは、RIAA(全米レコード協会)からの法的措置を避けるために3000万ドルを支払うことに同意した。それ以降、eDonkey2000 Webサイトは閉鎖されてしまい、訪問者を監視の恐怖に怯えさせることを狙った威圧的なメッセージに置き換えられた。プロプライエタリのプロジェクトがいまだに栄えている分野でeDonkey2000が失敗に終わった原因は何だろうか。

 eDonkey2000は、生き残っていたP2Pプログラムの中でも最古参の1つで、完全な分散型ネットワークモデルの先駆者だった。P2Pへの扉を開いたのは Napsterだったが、後発のシステムで重要性が証明された機能の多くはeDonkeyが広めた。例えば、MD4ハッシュによるファイル識別機能はファイル整合性のチェックと不正使用防止に役立ち、ed2k:URI方式はHTMLページからネットワーク上のファイルにリンクすることを可能にし、検索を効率化した。

 eDonkey2000は、両方の着想を(最初ではないとしても)最初期に実装したプログラムであり、第一世代のマルチソース転送アプリケーションの1つである。いずれも現在のファイル共有では最重要の機能であり、新しく作成されるプロトコルでは当然のようにサポートされる。

 これらの機能は、eDonkey2000が個人の作品から法人へと展開したときに相次いで現れたeDonkey互換クローンにも、すべて受け継がれた。eMulexMuleaMuleでは、eDonkeyのMultisource File Transfer Protocolが採用され、拡張された。一方、MetaMachineは、eDonkey2000とOvernetプロジェクトの間でリソースを行ったり来たりさせて、自社のマーケットをうんざりさせた。それは、2005年にレコード会社の弁護士が警告を送り始める前のことである。

 eDonkey2000の死亡がeMuleにとって何を意味するかとの質問に、eMule開発者Hendrik Brietkreuz氏は短く「何も」と答えた。彼によると、本当の質問は「なぜいまだにeDonkey2000を使う人がいるのか」だという。短所のある古いプログラムなのに、いまだに多くのeDonkey2000ユーザーが存在する。自分の質問にBrietkreuz氏はこう答えた。「理由はたくさんあると思いますね。非常に安定している。ネットワークの規模が大きい。機能豊富なプロトコルを使っている。そう、大きなネットワーク、素敵なプロトコル、そこにアクセスする質の良いソフトウェアがそろっていれば、誰が手放しますか」

 言い換えれば、ネットワークの大きさに価値があり、クライアントの機能に価値があるのではない、ということだ。そして、これはオープンソースにとっても重要な反面教師かもしれない。

クローズネットワークとオープンソースの比較

 私見ではあるが、プロプライエタリのP2P製品とサイズの点で比肩しうる大規模ネットワークを構築できたオープンソースのP2Pプロジェクトは存在しない。Gnutella、Freenet、そのほかのオープンソースP2Pプロジェクトは誕生したときから小規模で、多くは競い合う中でネットワークを衰退させている。ここでは、BitTorrentを仲間に入れていない。現在、ファイルのインデックス管理と検索はネットワークの外部で行われているからだ。

 ほかの「コミュニティー中心」分野にも同じ現象が見られる。インスタントメッセージング、VoIP(Voice over IP)、ソーシャルネットワーキングWebサービスなどがそうだ。ユーザーの大規模なネットワークを構築することが重要な分野で、フリーソフトウェアはライバルほど成功していない。

 プロプライエタリなプロジェクトが人気を集める理由の一端が、ベンチャー資本からの資金提供にあることは確かである。マーケティングと広告の費用だけでも、多くの人を引き寄せるには有効だ。とはいえ、それ以上に成功に寄与するのは、ネットワークを閉じた状態に保ち、設定の詳細部分をユーザーに見せないようにする能力ではないかと思う。設定の手間をSIPクライアントとSkypeで比較してみるとよい。Skypeの場合、ユーザー名を指定するだけで、ほかに必要な操作はない。それ以外の情報は、プロトコルとネットワークトポロジにあらかじめ設定され、固定されている。その結果、新規ユーザーにとって理解しやすくなり、参加しやすくなり、これがネットワークの成長を促進する。

 対照的にオープンソースは、プロトコルや標準の詳細部分を徹底してさらけ出し、枝分かれしたり統合したり、常にドアを広く開け放すのを好む。ほとんどのオープンソース支持者は、この開発モデルが結果としてコードやプロトコルの品質を高めると信じている。ユーザーを閉じ込めるクローズネットワークを作ろうと提案すれば、彼らの多くに白い目で見られるだろう。理由がマーケットシェアを握るためだったら、なおさらである。

 誰でも競争力のあるサービスを自由に立ち上げることができる、長期の存続が可能な「良い循環」のネットワークコミュニティーをオープンソースで構築できるだろうか。実例をわたしは探している。eDonkey2000の死亡が、コミュニティー中心コンピューティングの分野でオープンソースが常に2番手で終わってしまうことをあらためて痛感させたからである。

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