いつが買い時? 標準化に向け加速する「11n」の実力無線LAN“再構築”プラン(2/3 ページ)

» 2006年11月30日 08時00分 公開
[井上猛雄,ITmedia]

Wi-Fi認証製品の登場は07年半ばからか

 このように11nは、コンシューマーや企業の無線LAN環境を激変させる可能性を秘めた無線LAN技術といえる。だが、標準化への取り組みがなかなか進んでいなかったのも事実だ。これまで各社のさまざまな思惑もあり、対立した陣営ができたり、仕様に関する意見の食い違いがあったからである。それがここにきて、標準化への動きが加速し始めた。本格的な普及に向けて、業界を挙げて一直線に走り出したのだ。

 前述のとおり、11nは現在、標準化作業の真っ最中。2006年1月にドラフト(草案)1.0がまとまったが、5月に行われた文書投票(Letter Ballot)では、賛成票の75%に達しなかった。標準化のプロセスでは、ドラフトは1回で通るものではなく(11aのときはドラフト10まで検討された)、特に11nの場合には、物理層だけでなくデータリンク層までも改良の範囲に入っているため時間がかかっているようだ。現在、投票で寄せられた1万件のコメントを精査し、仕様を修正している段階で、このうちの技術的な3000件のコメントに関して検討中だ。

 802.11n委員会のタスクグループのスケジュールとしては、新しいドラフト2.0の文書投票(letter Ballot)が2007年1月ごろに行われる予定だという。ドラフト2.0の投票で75%の支持を得られれば、主要メーカーによる投票(Sponser Ballot)が2007年3月までに行われることになり、いよいよ承認段階へと移る。2008年4月までをめどに、IEEE委員会による標準化の最終的な仕様が確定する予定だ。

画像 11nの標準化への道のり。最終的な標準化は2008年4月ごろになる模様で、Wi-Fiアライアンスの認証以降がポイントとなる

 一方、ドラフト2.0が3月までに承認されれば、これをベースに6月末に相互接続性を実施するWi-Fiアライアンスの認証がスタートする。MIMO技術のパイオニアでもあるエアゴーネットワークス取締役副社長の高木映児氏は、「エアゴーとしては、標準化の仕様がしっかり固まった上でマーケットを健全に立ち上げ、その中で性能・コスト・消費電力などの面で、コンペチターと競争していきたい」(高木氏)というスタンスをとる。

画像 「市場展開は仕様が確定したあとで」とエアゴーネットワークスの高木氏

 実は、市場にはドラフト1.0対応をうたう「プレ11n製品」がすでに出回っている。現時点でこれらが標準化に基づいた最終製品と相互に接続できるとは限らない点には注意しておきたい。ファームウェアでのアップデートによって対応できるかもしれないが、仕様が固まっていない現段階ではまだはっきりしない状況だ。もし相互接続が保証されない場合には、レガシー通信のみの対応となってしまう可能性もないわけではない。

ドラフト2.0にみる11nの課題

 話を元に戻して、ドラフト2.0に向けて審議中の主な項目について簡単に触れよう。次のようなポイントがあるという。

  1. 40MHzチャンネルボンディングモードにおける相互接続および共存の問題
  2. Greenfield Preamble
  3. Power Save Multi-Poll
  4. 送信ビームフォーミング

 「チャンネルボンディング」とは、帯域幅を束ねて同時に通信できる帯域幅を増やす方法だ。11nにおいて、このチャンネルボンディングにより40MHz(20MHz×2チャンネル)の帯域幅を利用することが可能になる。国内では、今のところ40MHz幅の使用は認められていないが、後述するように法改正が行われる方向で進んでいる。その際に検討されている点は、近接チャンネル同士の干渉を避けるための課題と、11nとレガシー通信方式との共存問題だ。

 現在の無線LAN設計において干渉しないように運用するには、帯域幅20MHz×3チャンネル分しか確保できないのが実情だ。もし40MHzでボンディングした場合、使える帯域は20MHz×1チャンネル分しか残らないため、ほかの11b/gとの共存が難しくなる可能性がある。

 「2.4GHzはISM帯であり、またチャンネル間のオーバーラップなしに同時使用できるチャンネルも3チャンネルしかない。そのため日本企業を中心に、40MHzモードによる5GHz帯での使用に期待が持たれている。また、初期のドラフトでは議論されていなかったが、他システムへの干渉を抑えるため、拡張チャンネルでのキャリアセンス方式について現在議論がなされている」(高木氏)という。

 さて、11nのフレームフォーマットには3つのフレームフォーマットが用意されている。「Legacy mode」(11a/b/gと同じフレーム)、「Mixed mode」(11b/gが理解できる11nの下位互換フレーム)、「Greenfield mode」(11n同士のみで利用できるフレーム)がそれだ。各フレームには「Preamble」と呼ばれる同期信号(伝送速度、変調方式、データ長など無線通信を確立する際の準備情報)と、実際の送信データ部で構成されている。

 現在、Greenfield Preambleはオプションとなっているので、11n同士での通信を行う際に効率の良い活用ができないケースが出てくる。そのため、Greenfield Preambleの取り扱いについて調整中だ。高木氏は「利用者がアプリケーションによって選択できる余地があり、なおかつシステム間の干渉を抑えるためには必須の機能。それができなければ、衝突抑制のためにGreenfield PreambleのLength fieldまで(受信)解析できる機能を入れることが望ましい」と話す。

 3.のPower Save Multi-Pollは、主にAPと端末間での消費電力を低減するために提案されている技術だが、比較的最近の提案であるため細部を明確にしている段階だ。また、4.の送信ビームフォーミングは、アンテナ方向を電子的にコントロールして、電波を効率的に送る技術。現在、多数の方式がオプションとして定義されており、相互接続性の観点から、方法の絞り込みをしているところだという。

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