システムは出来上がったのに役立たず?――「上流設計」を考える(1/2 ページ)

ITが経営に対する貢献を求められている昨今、「要求」を決めるプロセスの重要性が増している。「システムは出来上がったが役に立たない」という結果を招かないためには、どうすればよいか?

» 2007年06月18日 07時00分 公開
[増田克善,アイティセレクト編集部]

 企業におけるITシステムの重要性はもはや言うまでもない。ITシステムは単なるツールから、ビジネスを支えるものへと変化している。事業戦略に即したITシステムの良否が、ビジネスの成否を決定するといっても過言ではない。しかし、逆にITシステムがビジネスに貢献できない結果となることも多くなってきている。

 よく「経営戦略と一体化したシステム開発」と言われる。情報システム部門もその認識は強く持っているものの、具現化するとなると非常に難しい。それは、そもそもITシステムが経営のどこにどのように貢献しているかという因果関係、目的と手段の関係が目に見えないからである。

 常に変化する経営環境と事業戦略を支えるシステム構築を実現するためには、そうしたITシステムが経営に貢献する因果関係を明確にすることからスタートし、会社にとって真に重要なシステム開発にリソースを集中していく必要がある。

要求定義のあいまいさが招く無駄なIT投資

 システム開発の工程は、ユーザーのビジネス上の課題を明確にし、その課題解決のために必要なシステムの機能を定義する「上流工程」と、定義されたシステムの機能をもとにシステムを構築する「下流工程」に大きく分けることができる。

 上流工程においてユーザーの課題を業務機能へと落とし込む過程が十分に行われないと、「業務知識の欠落が原因で本来記述すべき例外処理等を記述していない」「IT化による業務改善を考慮せずに現行業務をそのままIT化してしまう」「システム化の目的を実現する手段が網羅されていない。あるいは、システムが仕様通りに完成しても未解決の問題が残る」「解決すべき課題および達成すべき目的について関係者間で合意できない」といった問題が生じる。

 これらの問題の本質は、発注者側であるユーザーが課題を認識していないこと自体に気づいていない、「知らないことを知らない」ことにある。知らないことを知っていれば事前に手を打つことができるが、大抵の場合システム構築後でさまざまな課題に気がつくために、仕様変更の多発、システムを作っても使われない、不必要な機能の実装といった無駄なシステム投資の増大を招くことになる。

 このような問題を防ぐには、要求の構造を明確にするために要求定義の精度と品質を向上させる必要がある。ところが、ユーザー企業における要求定義は、そうした重要性を理解していても実態が伴っていないのが現実だ。

システム部門の発注者としての反省

 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が実施した「企業IT動向調査2006」によれば、発注者の反省点として「仕様の定義が不十分」という回答が44%、「要求仕様を明確に提示しない」が22%も占めている。従来、ユーザー企業が作成してきた要求定義のあいまいさを自ら認めているのである。

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