WAN高速化の導入で失敗しない方法――製品選び編最適化から始まる、WAN高速化への道(2/3 ページ)

» 2007年06月19日 08時00分 公開
[岩本直幸,ITmedia]

基本はベンダーへの問い合わせ

 さて、WAN高速化のソリューションの導入を検討するシステム担当の方のために、ベンダーの選定から製品選択までの一連の流れを一通り紹介しよう。前提として、以下を想定したケースを考える。

  • セキュリティ強化を目的としたセンター統合を検討
  • 速度2Mbps、遅延は最大30ms(ミリ秒)の回線で国内に分散した拠点のアプリケーション高速化を行う
  • 利用するアプリケーションはWindowsファイル共有、NotesメールとDB、FTP、HTTP/HTTPS

 まず、WAN高速化ベンダーの調査と比較を行う。ここでは例として、国内で実績のある上記の5ベンダー(シスコ、パケッティア、ジュニパー、F5、リバーベッド)を比較することにする。

 今回の要件は、セキュリティ強化を目的としたセンター統合であり、拠点に分散したサーバをセンター側に集約することだ。したがって、拠点には実データを置かない製品を選択する。この段階で、拠点に実ファイルを配置するシスコとパケッティアの製品が検討の対象外となり、ジュニパー、F5、リバーベッドの3社が残ることになる。さらに、回線帯域が2Mbpsであることから、2Mbpsに対応した製品を調べると、3社のいずれも対応することが確認できる。

 まず、製品のアプリケーション対応を机上比較すると、本ケースで高速化対象となっているすべてのアプリケーションに対応しているのがジュニパー、リバーベッドであることが分かる。ここで注意したいのが、カタログスペックに載っているからといって、必ずしもすべてのアプリケーションを高速化できるわけではないということだ。そういう意味では、パケッティアやF5も選択の中に入れておいて問題はない。

 次に、これら2ベンダーの製品を取り扱っている代理店を探すことになる。ジュニパーやリバーベッドのWebサイトを参照すれば代理店を探すことも可能だが、これら2ベンダーに直接連絡して代理店を紹介してもらう方が安心かつ確実な手段と言える。もちろん、出入り業者に問い合わせることも1つの手段だが、取り扱いがあるからといって導入実績があるとは限らないため、導入実績のある代理店を選択した方が失敗は少ない。1つの目安として、ユーザー導入事例として公表している代理店は公表している以外にも多くの実績を持っていることが多いので、ユーザー導入事例を探してみるのもいいだろう。

 代理店も決まり、2ベンダーの装置について話を聞く段階になったら、導入実績について再確認する。そして、導入要件を伝え、期待通りの装置が提案されているかを確認しておく。期待通りでない場合は、なぜその製品が選択されるのかを確かめるべきであろう。そして、製品の価格や保守体制について聞く。実績のある代理店であれば、国内での保守は問題なくできるはずだ。

実環境で計測しよう

 この段階で、「装置を導入して本当に高速化されるのか?」という疑問が浮かぶかもしれない。やはり、デモで速くなることを見せられても、実環境・実アプリケーションで確認してみなければ信用できない。ベンダーによっては、ツールを使えば実環境の検証なしに高速化できるかどうかの判定が行えるというが、あくまでも実環境で動作確認をすることを推奨したい。

 実環境での検証では、業務で使用しているアプリケーションとデータを使って業務の流れに沿った検証を行うとよい。例えば、Windowsファイル共有の検証を行う場合、WAN高速化装置がない環境でファイルサーバ上のデータを開き、ファイルを編集して、保存するといった一連の流れにかかる時間をそれぞれの作業ごとにストップウォッチで計測する。この際、ファイルを開く作業でも、エクスプローラを使ってファイルをダブルクリックして開くケースやコマンドプロンプトからファイルを指定して開くケースなどをそれぞれ5回ほど計測する。計測を行った5回の中にはたまたま遅くなったケースも含まれるため、一番速い場合と一番遅い場合を抜いた計3回の平均時間を計測結果とする。

 次に、WAN高速化装置を導入した環境で、導入前とまったく同じ内容の検証を実施して、その結果をWAN高速化装置の導入前と比較する。この際、実環境とはいってもさまざまな制約を受けることが予想されるため、アプリケーションの中でも特に高速化を期待しているものを決めて比較する。

 また検証時の構成についても、既存のネットワーク環境を変更しなくて済む方法を選択する。構成としては、クライアントとサーバの通信ライン上に配置するインパス(In-Path)構成が主流だが、検証目的ではインパス構成にできないこともある。もちろん、導入時の構成で検証することが一番好ましいが、あくまでも効果の有無を測定するためであれば、影響の少ない構成を選びたい。例えばリバーベッドの「Steelhead」の場合、拠点だけはインパス構成を取るが、ネットワーク断が許されないセンター拠点ではアウトオブパス(Out-Of-Path)構成を取ることが可能だ。

図2 図2●検証時のシステム構成(国内拠点)

 このアウトオブパスとは、クライアントとサーバの通信ライン外に配置する構成だが、いわゆるPBRやWCCP(*1)といった既存のルータ/レイヤ3スイッチの機能でルーティングを変更する手法ではなく、拠点側装置からセンター側装置へのフォワーディングにより可能となる。つまり、センター側のネットワーク構成は変更せずに、スイッチポートへ装置を接続すれば導入が完了する(図2)。

 以上のように検証を行い、性能比較をするわけだが、その際のポイントとしたいのが、次の内容である。

  1. 設定が容易であること→保守面を考慮すれば当然
  2. 検証環境の構築が速いこと→導入が大変であればトラブル時の対応も大変
  3. 性能が良いこと→回線を増速しても効果が得られないアプリケーションを高速化できる
  4. チューニングが少ないこと→スキルの違いによりサポートレベルが低下する恐れがある

 さらに検証時には、実際にアプリケーションをWAN越しで使っている、または、使うことになるユーザーにも参加を要請し、導入効果を納得してもらわなければならない。ユーザー側の理解が得られなければ導入の意味がなくなるからだ。また、ユーザー独自の使い方が存在している場合、その使い方でも効果があることを確認しておく必要があるため、そのユーザーによる参加を事前に調整すべきであろう。


*1 PBRやWCCP:ネットワーク機器の機能を使用してWAN高速化装置にパケットをリダイレクトする機能。PBR(Policy Based Routing)は、ACL(アクセスコントロールリスト)で設定したリダイレクトの対象となる通信を指定したアドレスにリダイレクトする、一般的なL3スイッチの機能。WCCP(Web Cache Communication Protocol)は、PBR同様にコンテンツリダイレクトを行うためのシスコの独自プロトコル。


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