1980年代にホンダでF1チームを指揮した桜井淑敏氏は、F1とITの歴史について、「1985年に当時のWilliamsチームへホンダがエンジン制御を目的に遠隔監視システムを導入したのが最初だったと記憶している。今ではこうしたITがF1には欠かせないものになった」と述べた。
また、片山右京氏は「私がデビューした当時(1992年)は、ちょうどコンピュータがF1の世界へ本格的に入り始めた時代。それでも、新しく開発された部品は実際にレースカーに装着しないと性能が分からない“ぶっつけ本番”のようなことがほとんどで、命がけでレースカーの開発に携わっていた」と、現役時代を振り返った。
現在では、出走するサーキットのコース特性(コーナーの多少、アップダウン、天候や気温変化に路面状態の変化など)をベースに、スーパーコンピュータ上でレースカーの部品がどのように機能するかをシミュレーションできる。このため、レース本番では開発した部品がまったく機能しないという事態が少なくなった。
また、従来はドライバーの感覚に頼ることの多かったデータも、現在ではレースカーに120個以上のセンサが取り付けられて、デジタルデータとしてリアルタイムに収集・分析できるようになっている。
今年はWilliamsのレースカー開発ドライバーとして活躍し、最終戦のブラジルグランプリでデビューした中嶋一貴選手は、「ドライバーが感じた車の挙動の変化などを、口頭でエンジニアに伝える機会が少なくなりつつあるようだ。今では詳細なデータからがすぐにシミュレーションが行われ、その時の環境に適した車の設定をコンピュータが提案する」と話す
さらには、「本番のレースではこれまでのレース経験に加えて、サーキット環境や予選・決勝の流れを再現できるシミュレーターで繰り返し練習をしたことで、満足のいく結果を手にできた」と語った。中嶋選手は、F1ドライバーの中でも手にすることが難しいデビュー戦10位完走という結果を手にした。
桜井氏によれば、F1ドライバーにはITを嫌い、自らの運転技術に傾倒するドライバー、ITを何となく使ってみるドライバー、ITを積極活用するドライバーの、3つのタイプが存在するという。
「積極的に利用するドライバーの代表が故アイルトン・セナだった。彼は、IBM3380で分析したデータを自分の運転スタイルに取り入れ、さまざま方法を試していたのが印象に強く残っている」(桜井氏)
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