執着がないからできる?――「お金もうけなんて簡単」夏目房之介のその後の「起業人」(1/2 ページ)

ソフトブレーン創業者の宋文洲さんには利害得失への執着心があまり感じられず、発言がそのままの意味で届きやすいのかもしれない。

» 2007年11月30日 08時00分 公開
[夏目房之介,ITmedia]

 宋文洲さんが登場した日経新聞のインタビュー記事(2007年8月27日付「インタビュー領空侵犯」)には「聞き手から」という小さな記者のコラムが付いている。そこには、こんなふうに書かれている。

 「『日本、タブー多過ぎよ』と軽快な口調で日本社会の閉鎖性を次々と指摘、経営者にもファンが多い。『同じことを日本の若造が言ったら怒られるでしょ』。外国人の立場をフルに活用し、耳障りな忠告をあえて発する」

 ここに書かれた口調のほうが、宋さんらしい。たしかに彼は外国人である「利点」を意識して発言していて、それは彼の場合ポジティブな効果になるが、誰でもそうなるわけではない。彼のような発言の場合、むしろ逆効果になるほうが多いのではないかと思う。

 もちろん、日本社会の文脈に絡め取られない、外側の意識からの発言だからハッとする効果をもちやすいのだが、逆に文脈を無視した景気のいいだけの揚言にもなりやすいはずなのだ。そういう発言に批判性はあっても実効性はない。

 だから同じことをテレビのキャスターや識者が語っても、僕などはそのまま受け取る気になれないし、話半分以上に聞くことはまずない。宋さんの場合は、軽やかだけど、ちゃんとそのままの意味で受け取れる気がする。宋さんには利害得失への執着心があまり感じられず、発言がそのままの意味で届きやすいのかもしれない。

「ITセレクト」誌2002年4月号より

 「異文化ってトクするよ。何でそんなこと思い付くのって聞かれるけど、こちらにしたら普通の習慣なんだから」

 これも分かる。私にとって当たり前のことが、他の人にはとんでもないアイデアに見えてしまうことがよくあるからだ。

 海外の人と交流するようになってから、私は異文化というのは、要するに程度の差であって、同じような違いが同じ国の世代間や男女間にも、個人間にもあるのだと感じるようになった。ヨーロッパの若者とマンガの話で共感でき、日本の会社員と仕事の話が通じない。そんなことが平気で起こる時代なのだ。

 不満はあっても、宋さんは「今の中国より日本の方が好き」だと言う。愛国心は相対化されたが、中国の文化には誇りを持っている、とも言う。


 ずいぶん前に個人的に会ったとき、ふと彼はこんなことを言った。

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