あなたの企業のセキュリティ対策を評価する「新基準」企業セキュリティ古今東西(2/2 ページ)

» 2007年12月27日 07時00分 公開
[富永康信(ロビンソン),ITmedia]
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「管理」と「監査」、2つの基準

 一般的に、企業などの情報セキュリティマネジメント体制が確立するまでは、ベストプラクティスに照らし合わせ、未熟な部分を見える化する助言型監査でレベルを向上させ、必要に応じて保証型監査を行っていくという段階的プロセスが取られる(図2)。経営者が内部目的(自組織の情報セキュリティ対策が実施・運用されているかを確認する)で助言型監査を自社の経営判断に利用したり、外部の利害関係者に監査結果を示す必要が生じた際に外部目的(情報セキュリティ対策状態を外部の利害関係者に開示する)で保証型監査を利用したりするケースが考えられる。

図2 図2●助言型監査から保証型監査へ(出典:経済産業省)

 また国が示した基準のうち、「情報セキュリティ管理基準」は、国際標準ISO17799:2000(JIS X 5080:2002、技術・情報セキュリティマネジメントの実践のための規範)をベースに策定され、全体で132のコントロール(管理策)と、それを詳細化した952のサブコントロールから構成されている。

 ただし、そのコントロールと体系はベストプラクティスを示したものとなるため、保証型監査では肯定的な保証の範囲が限定される場合や助言型監査では、理想と現実がかい離してしまうこともある。そのため、当面は、監査を行う主体の判断によって、国際的にも認知されている米国商務省のNIST特別報告書800-26「ITシステムのためのセキュリティ自己評価ガイド」(図3)や、COBIT(*1)、SSE-CMM(*2)などの成熟度モデルを適用することが望ましいとされる。

図3 図3●NIST「ITシステムのためのセキュリティ自己評価ガイド」(出典:経済産業省)

 一方、「情報セキュリティ監査基準」は、監査を行う側の適格性と監査業務上の順守事項を示す「一般基準」、監査計画の立案と監査手続き実施の枠組みを規定する「実施基準」、監査報告書の記載方法を規定する「報告基準」の三部で構成されている。これらは、内部監査人協会(IIA)の基準、ISACA(旧情報システムコントロール協会)の基準などを参考にして策定されている。

 特に実施基準においては、情報セキュリティ管理基準の位置付けや、保証型監査と助言型監査の選択、リスクアセスメントの実施、成熟度モデルの利用といった、「実施基準ガイドライン」を策定している部分として重要である。

気になるISMS適合性評価制度との関係

 ところで、情報セキュリティ監査制度と、現在人気の高いISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)適合性評価制度との使い分けが気になるところだが、このISMSの管理基準もJIS X5080:2002を参照して策定されていることから、双方を排他的にとらえる必要はないとされている。

 ISMS認証は、国際的に定められた認証基準に対して認証するため、その認証基準は汎用的である一方、情報セキュリティ監査は基本的に被監査主体の選択の自由度が高く、組織の監査ニーズに応じて情報セキュリティ管理基準項目の一部に限り監査を受けることや、前述の助言型監査や保証型監査を目的に応じて使い分けることも可能となっている。

 例えば、アクセス制御の部分についてのみ客観的に監査を受け、それらの積み重ねでISMS準拠性監査を行い、ある段階になったらISMS認証を取得する方法や、助言型監査を利用してマネジメントレベルを次第に高めていき、ISMS認証取得レベルに向上させていく利用法もある。

 反対に、ISMS認証取得後も取引先などの特定の相手方から技術的なコントロールについての監査結果を求められた場合、情報セキュリティ監査で部分的なコントロールについての重点的な保証型監査を受けるといったケースもあり、互いに補完的に利用することが賢明といえるだろう。

 ただし、情報セキュリティ監査で、ISMSと同様な広範囲のスコープで保証を得るためには、大きな負荷や工数がかかってしまい、経済的合理性が認められない場合もあるので注意が必要だ。


 次回は、日本の情報セキュリティ監査制度を支える組織と、監査主体による校正かつ公平な情報セキュリティ監査を行うための「情報セキュリティ監査人制度」について言及する。


*1 COBIT:Control Objectives for Information and related Technology。米国の情報システムコントロール協会(ISACA)が提唱するITガバナンスの熟成度を測るフレームワーク。


*2 SSE-CMM:The System Security Engineering Capability Maturity Model。セキュリティエンジニアリングに関する組織能力成熟度モデル。


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