ネットと飲食業界を結び付けた伝道師日本のインターネット企業 変革の旗手たち

インターネットで生活情報を扱う切り口を見いだしたぐるなびは、あらゆる飲食店を対象にビジネスを拡大し、インターネットと飲食業界を結び付ける伝道師としての役割を担ってきた。その秘訣はどこにあるのか。

» 2008年01月01日 00時00分 公開
[藤村能光,ITmedia]

 話題のWebサイトからベストサイトを選ぶ「Web of the Year」。その各部門の常連となっているぐるなびは、飲食業界にインターネットサービスという切り口をもたらした功労者だ。躍進の秘訣はどこにあるのか、久保社長に話を聞いた。

ITmedia ぐるなびとインターネットの出会いはどういったものでしたか

image ぐるなびの久保征一郎代表取締役社長

久保 交通広告を扱うNKBという会社で立ち上げた事業の1つがぐるなびです。駅の情報化という観点で交通広告に取り組み、今でいうキオスク端末のような通信端末からサインボード(駅看板)を発信しようと考えていました。しかし、扱う情報ごとに端末を作らなければならず、採算が取れなかったほか、駅ごとにスペースが異なるため端末の設置台数が限られるなど、さまざまな問題が生じました。そしてバブルがはじけ、右肩上がりだった交通広告ビジネスでは収益が望めなくなり、これまでのビジネスをどう運用するかという選択を迫られました。そういった中で、インターネットの時代が台頭してきたのです。

 これを契機に、事業のすべてをインターネットにシフトし、生活情報という切り口1本でインターネットビジネスを営んできました。これまでのコンピュータは、オフィスオートメーションや科学計算などには使われていたものの、生活情報を発信するために利用されることはありませんでした。そこに目を付け、飲食店を扱ったインターネットサービスを始めたのです。

知らぬ間にWeb2.0のビジネスモデル

ITmedia ぐるなびがインターネットサービスで成長を遂げたポイントはどこにありますか

久保 われわれが一貫して行ってきたことの1つに、飲食店側からお金をいただいてきたことがあります。当時のインターネット広告ビジネスは成功報酬形式を取り、ユーザーや情報提供者から課金することは考えられませんでした。

 その頃の飲食業界は、店を出せばお客が入るといった盛況ぶりを見せていましたが、インターネットビジネスに対する理解はあまり得られませんでした。小さな飲食店でも出費できる金額として決定した月額3000円ですが、いただくのにとても苦戦していました。

 当時は営業部隊がノートPCを持って飲食店を回り、その場でWebページやコンテンツを見てもらっていました。その後ぐるなびを見てお客さんが来るらしいという話が広がったほか、インターネットや雑誌などで取り組みを紹介してもらう機会が増えるなどして、着実に注目を集めていきました。

 ぐるなびは、飲食業界におけるインターネットの伝道師としての役割を果たすとともに、今で言うロングテールのようなビジネスモデルを行っていたともいえます。

ITmedia なぜインターネットビジネスに関心がない飲食店に、掲載の課金を行ったのでしょうか

久保 情報の鮮度を保つため、そして飲食店側の意識を変えるためです。課金するまでは、一度広告を掲載すると、その後更新がなかなか行われないといったことが起こりました。古い情報が掲載されているメディアに足を運ぶユーザーはいません。これを改善するには、情報を提供する飲食店側の意識を変えなければならないと理解しました。

ITmedia まず飲食店ありきという考え方ですね

久保 もちろん、ユーザーにとっても利益をもたらすモデルを目指しました。そこで考えたのが割引クーポンです。クーポンをきっかけにお店に足を運んでもらうことで、飲食店側も広告効果を実感できます。着々と効果が見え、ぐるなびの認知度が広がってきていることが実感できたところで、ぐるなびがユーザーの意志決定を支援し、それが飲食店の利益に貢献していると分かってきました。

熱意を持って作ったものこそ顧客に伝わる

ITmedia 話題のWebサイトから「ベストサイト」を選ぶYahoo! Internet Guide主催の「Web of the Year」において、生活情報部門および店舗検索部門で常に上位にランクインしているのは、飲食店を扱うほかのインターネット媒体と差別化されているのだと思います。そのポイントはどこにありますか

image 「知らず知らずのうちにWeb2.0のビジネスモデルを展開していた」と久保氏

久保 ぐるなびでは、文字と写真を入れるだけの簡単な管理システムを飲食店に提供し、コンテンツを作ってもらっています。店のセールスポイントを理解しているのはわれわれよりもその店自身であるという事実に気づいたからです。当時、情報管理を飲食店側に任せることに対し、社内でも多くの反対がありました。品質の高いコンテンツ製作を飲食店に求めるのは無理ではないかという不安からです。しかしそれを押し切り、それぞれの店にコンテンツ作成を任せました。このシステムを使うと、顧客をたくさん集めたい店は自然と情報を作り込んでいきます。熱意を持って作り込んだものは、自然と顧客に伝わるのです。

 それが結果となって表れたのか、今では毎月2万店以上が従業員自らの手で情報を更新しています。また人気を獲得するページのほとんどは飲食店側が作り込んだページであるという結果も出ています。知らず知らずのうちに、飲食店のCGM(Consumer Generated Media)を作っていたともいえますね。

ITmedia 飲食店の意識を変えるという点が大変興味深いです。そんな御社がこれまでに培ってきた企業理念はどういうものですか

久保 食のビジネスを行う中で、アメリカの飲食業界を知る機会がありました。その実態は、「こんな情報ではユーザーは満足しないだろう」というレベルの情報が平然と提供されていたのです。これではいけないと思い、ぐるなびでは、メニューや店舗の詳細情報を充実させました。食に繊細なこだわりを持つ日本の国民性を生かすことを考え、飲食業界の基盤を日本から世界に普及させたいという意味を込めて「日本発、世界へ」という企業理念を掲げています。

 また、21世紀の食生活を豊かにしていくという目的から社会性を大事にし、その一環として人材育成・輩出にはこだわっています。プロのシェフや飲食店で働きたいという人材を輩出するため、全国のシェフを対象にしたコンテストやぐるなび大学を開催しています。

自分の核は働きながら作れ

ITmedia インターネットの先駆者としての役割を果たしてきたぐるなびが求める人材像はありますか

久保 われわれは飲食店のサポートをメインにビジネスを展開してきましたが、今後はそれだけにとどまらず、食を通じて雇用問題や仕入れ問題、環境問題などを含めてサポートしていきたいと考えています。ぐるなびはその目的に向けて、これからも新しい事業をたくさん生みだしていきます。そのためには、仕事に積極的にかかわっていきたいと考えている人はぐるなびに合っているといえます。

 また仕事は人と人とのかかわりがあって初めて成し遂げられるものですから、コミュニケーション能力は必要と考えます。言い換えれば、人と人とを柔らかくつなぐインタフェースの役割を果たせるような人です。

 加えて、最終的には自分の核を持った人になることを期待しています。ぐるなびの新卒採用を始めたのはここ数年のことで、新卒入社の社員数も70〜80人程度です。全社員の10分の1にも満たない数ですが、プロパーの社員が頭角を表し、重要なポジションに就いています。採用の段階では核を意識できなかったとしても、仕事をしていく中で核を作っていくことはできると考えています。 

 これから就職活動を始める人には、チャレンジすることに積極的になってほしいと思います。新卒の人材が持つ“無限の可能性”に目を向けてほしいですね。

ITmedia 話は変わりますが、社長はどのようにオフを過ごしていますか

久保 体を動かすことが好きで昔は登山やスキーをしていましたが、今はちょっとできていません。休日は仕事から離れたいとは思っているものの、PCに向かうとどうも仕事のことを考えてしまいます。

 そういった中で意識的に行っているのは“歩く”ことです。どこに行くにもたいてい電車を使います。歩いたり電車に乗ることは、時間をぜいたくに使っていると認識しています。社内の階段も歩いて上り下りしています。

image 「IT企業の社長というと派手な車を乗り回しているイメージを持たれる方もいらっしゃると思いますが、だいぶ違います」と久保氏

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