ブラッド・ノイベルクとGoogle Gearsが描くWebの未来Focus on People(1/2 ページ)

「思いも寄らないようなことをブラウザにさせたい」――Google Gearsの開発推進役であるブラッド・ノイベルク氏は今、Webの未来を見据えてそこに更新メカニズムを与えようとしている。

» 2008年05月15日 14時05分 公開
[Bruce Byfield,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine

 「思いも寄らないようなことをブラウザにさせたい」というのがブラッド・ノイベルク氏の口ぐせだ。Google Gearsの開発推進役として、ノイベルク氏は広い視野でこの好奇心を追求している。そこには意欲的な開発者の枠を超えた思いがあり、何度もカンファレンスで講演をしている者としての一面も伺える。Gearsは単にインターネットのコンテンツをオフラインで扱う手段(これまでのGoogle ReaderやGoogle Calendarのようなアプリケーションにおける主要機能)ではなく、Webの自由を守るのに役立つ普遍的なブラウザの更新メカニズムとしても期待できる、というのが彼のメッセージである。

ブラッド・ノイベルク氏 ブラッド・ノイベルク氏

 ノイベルク氏は多くの点から、GoogleのGearsチームがオフライン作業に注目するのはごく自然なこと、と考えている。まず、かつてオフラインで使えるWebベースの協調型ワープロを実現したいと考えていたノイベルク氏は、有名なJavaScriptおよびAjaxライブラリであるDojo Toolkitの主要コンポーネントの2つ、Dojo OfflineDojo Storageの作者でもある。また、自ら手掛けるKiwiという名のWikiのオフライン化に取り組んできたほか、営利企業RojoによるWebベースのフィードリーダにも携わった。「わたしが考えてきたのはだいたい、新しいタイプのブラウザやWebを生み出す方法、つまり、それまでの常識に取らわれずにブラウザやWebを活用することだった」

 こうしたふさわしい経験を持ちながらも、ノイベルク氏はGoogleに加わるのをためらっていたことを認めている。同社の支援を受けることがGearsの普及と長期的目標の達成にとってプラスになるかどうかに不安を感じていたのだ。「正直に言うと、この問題のせいでGoogleに入ったときの気持ちは複雑だった。オープンソース支持者でAjax使いであるわたしが本当に活躍できる場所がGoogleにあるのか、しっかりと確かめたいと思った」。はじめは「Google」の名を冠したプロジェクト名にさえ戸惑いを覚えたという。

 しかし、半年間Googleで仕事をしてきたノイベルク氏は、自分の選択が正しかったことを確信しているようだ。「これまではとてもうまくいっている。わたしがやっているのは、開発者とWebのためを思って意見を述べること。開発者にとって大事なことを社内の人々を伝えるのにかなりの時間を割いている」

 ノイベルク氏がGoogleで過ごす時間の多くは、特定のオープン規格の採用を主張したり、小さな会社のGearsへの参画を提案したりするのに使われているという。「イノベーションは小さな組織や草の根の活動から生まれるものだ、と自分は信じている。重要な鍵を握る人物であれば、社外の人材を参加させることもある。そういう場合は、そのままオフィスまで引っ張ってくる」。また、Gearsコミュニティーや関連プロジェクトからの批判を社内に伝え、Googleが不満の声に耳を傾けて対処してくれるのを確かめることもある。

 Googleの外に出ると、それがWeb上であれカンファレンスの場であれ、ノイベルク氏は多くの時間をWebに注力するフリーソフトウェアプロジェクトとのやり取りに当てている。「GearsとYUI(Yahoo User Interface)の統合をもっと密にしたい」とノイベルク氏は言う。また、Mozillaのオフライン機能を開発している人々とも個人的なつきあいがある彼はこう語っている。「Mozillaとは積極的に情報を交換していきたい。Webを新たなものにして機能を強化し、もっと多くのものを扱えるようにするという目標は、彼らと同じだと思うからだ」

Webに更新手段が必要な理由

 ノイベルク氏(そして多くの開発者)にとって、Webの機能を拡大するという考えは非常に興味深いものだ。だがGoogle社内でも社外でも彼は、テクノロジーのある特定の部分だけが危機にひんしているのではない、と主張している。実際、ノイベルク氏は、Gearsや一部の競合プロジェクトの担う役割が彼の思い描くとおりのものであるかどうかに特別な関心を寄せているようには見えない。重要なのは、Webの諸問題に対するソリューションの探索が Webの継続的な進化のみならず、Webの自由の維持にとっても欠かせないことだ、と彼は語る。

 「ここ2年間、将来性のあるアプリケーションプラットフォームとしてのWebのブーム再来を目にしてきた。HTMLはAjaxとしてよみがえり、すでにわれわれはその威力を目の当たりにしている。Webに対する期待がふくらみ、問題が深くなるとともに、Webに携わる人が増えている。そのため、Webの問題をすべて解決する必要がある。昨年Adobe AIRSilverlightなど選択の余地が拡がったことで、Open Webの考え方をどのように持ち込むかという議論が生まれつつある。もっと深いレベルにおいてもそうだ。何が次のステップとなるのか、そこからどこへ向かうのか。それはまるで、走っている列車に乗りながらその改良や修理をしようとするような状況だ」

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