初めてのサービスレベルアグリーメント【その3】ITIL Managerの視点から(2/2 ページ)

» 2008年05月19日 08時00分 公開
[谷誠之,ITmedia]
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閑話休題――

 かなり前のことになるが、筆者はあるサークルに所属していた。サークル内の情報交換を目的としてWebサイトを立ち上げることになり、筆者がその管理者に任命された。この場合、ITIL的に考えれば、サークルが顧客、筆者がプロバイダである。筆者はあるISPのホスティングサービスを利用しようとした。料金が格段に安いからである。

 筆者はそのISPに、(イジワル半分で)「SLAはどうなっていますか?」と聞いたら、そのISPは「SLAはありません。ネットワークも、Webサーバも、まったく保証できません。そのぶんお安くなっております」と説明された。予想はしていたが、その予想をはるかに上回る、テキトーさであった。

 この場合、ISPと筆者との間で締結されるSLAは、ITIL的には請負契約となる。(実際には締結もへったくれもなかったわけだが)。となると、筆者はこのサークルに対して、Webサーバに対するSLAは組めないことになる。間違っても「24時間、いつでもWebサイトにアクセスできますよ」なんて言えないわけである(趣味のサークルだから、そこまで目くじらを立てる必要はなかったが)。

 さて、本来ITサービスレベルとは、顧客が顧客のビジネス要件を満足させるために、ITサービスに対して「ここまでやてほしい」というサービス要件の高さである。すなわちゆるぎないビジネス要件があって、それを支援するためのITサービスレベルであるはずである。しかし、現実はそううまくいかない。期待されるITサービスレベルを、どうしても満足できないことだってあるわけだから。

 SLAをうまく合意に結びつけるためには、まずラフなOLAを決定しておくことをお勧めする。その上で、SLAに盛り込むべきサービスレベルがはっきりした段階でOLAの見直しを図るのである。一方請負契約は外部のサプライヤと結ぶものであるから、後で変更がきくものではない。ビジネス要件が明確になる前に、外部サプライヤと先に契約してしまうのは得策ではない。ビジネス要件が明確になり、SLAでどの程度のサービスレベルを保証しなければならないかがはっきりしてから外部サプライヤと交渉することを強くお勧めする。

 もう1つ大事なことは、SLAもOLAも請負契約も、一定のタイミング(半年とか1年とか)で必ず見直すことである。OLAや請負契約がSLAをちゃんとサポートしているかどうかを定期的にレビューし、SLA違反を起こしそうだったり、あるいは実際に起こしたりしている場合はOLAや請負契約を改正する。ビジネス要件が変わると、SLAも変わるだろう。SLAが変わると、OLAや請負契約も変わる。

 SLAには、SLAをレビューするタイミングや頻度に関しても記述するほうが望ましい。それを受けて、OLAの見直し、外部サプライヤとの契約の見直しなどを図っていくのである。

 次回は、SLAの中で合意することが欠かせない、可用性に関して触れる。キーワードはMTTRやMTBFである。

※本記事の用字用語については、ITILにおいて一般的な表記を一部採用しています。

谷 誠之(たに ともゆき)

IT技術教育、対人能力育成教育のスペシャリストとして約20年に渡り活動中。テクニカルエンジニア(システム管理)、MCSE、ITIL Manager、COBIT Foundation、話しことば協会認定講師、交流分析士1級などの資格や認定を持つ。なおITIL Manager有資格者は国内に約200名のみ。「ITと人材はビジネスの両輪である」が持論。ブログ→谷誠之の「カラスは白いかもしれない」


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