中堅中小企業の経営基盤改革術

中堅中小企業は何を基準にERPを選ぶのか2000年問題で歪んだ導入事情(1/2 ページ)

中堅中小企業専門のIT調査会社、ノークリサーチにERPの導入実態について8回にわたり話してもらう。過去の経緯からERPの歪んだ導入事情がある点などを指摘する。

» 2008年06月02日 00時00分 公開
[岩上由高(ノークリサーチ),ITmedia]

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 中堅中小企業のERP導入実態について取り上げる。ERPに関しては、市場予測などのマクロデータやベンダー視点での製品選定記事などを多く見かけるものの、ユーザーの視点に立って導入の経緯や利用実態を明らかにした記事は少ない。

 そこで、本連載は「中堅中小企業は何をきっかけに、どんな基準でERPを選定し、導入しているのか」「実際に導入した中堅中小企業はどのように自社の業務改革を行っているのか」などを具体的な事例を交えて追っていく。全8回で下記のような内容を予定している。

  • 第1回 中堅・中企業は何を基準にしてERPを選ぶのか?
  • 第2回 ERPの構成要素と導入の流れ
  • 第3回 ERP導入の成功パターンと失敗パターン
  • 第4〜7回 ケーススタディ
  • 第8回 2008年のベンダーアピールを中堅中小企業はどう見るか?

第1回 ERPの選定基準

 それでは早速、第1回のテーマである「中堅中小企業は何を基準にしてERPを選ぶのか?」に入っていく。

 大企業におけるERP導入は、全体最適による全社的な業務効率改善や経営資源の統合管理といった戦略的かつ内発的な要因によるものが一般的である。一方で中堅中小企業では自社の戦略というより、むしろ外発的な要因が多くを占める。1つはいわゆるレガシーなシステムのリプレースといったシステム的な要因だ。もう1つは内部統制(日本版SOX法)や国際会計基準(四半期決算)への対応や納期のさらなる短縮といったビジネス的な要因である。

 このようにERP導入のきっかけが、大企業と中堅中小企業では大きく異なるのである。もちろん、大企業においても内部統制や国際会計基準への対応が重要事項であることには変わりないが、中堅中小企業が目前の課題解決に着目するのに対し、大企業ではそれらの課題の解決と合わせて全社的な取り組みを進めようとする点に違いがある。

 内発的な要因によってERP導入に取り組む大企業と異なり、中堅中小企業は中長期も視野に入れた導入指針が策定されていない、自社の業務を分析する担当者などを確保できないといったことも少なくない。結果として既に付き合いのある販社やシステムインテグレーターに外的要因の解決を任せる形となる。

 これはオフコン上に構築された基幹システムをリプレースするケースでは特に顕著で、オフコン時代のベンダー依存体質が色濃く残っているともいえるだろう。

 こうした背景から日本の中堅中小企業のERP導入では中堅中小企業側が製品選定を行うことは少なく、コンタクトしてきた販社やシステムインテグレーターが薦める製品をそのまま採用することが多い。その結果、販社やシステムインテグレーターの選定が決定要因となるわけだが、その際には「国内での実績」「サポート対応力」「現状のつきあいの有無」といったことが選定基準として重要であるという結果が過去のユーザーリサーチからも明らかになっている。

 ERPパッケージの国内市場シェアは、中堅中小企業にチャネルを持った国内企業が強く、大企業での実績を持つ外資系がやや苦戦する状況が続いているが、それらもこうした中堅中小企業の特性を踏まえることで理解できるだろう。

 中堅中小企業におけるERP導入が外発的要因によって起こされていることは分かった。しかし中堅中小企業と言っても幅が広く、また外発的要因にもさまざまなものがある。それらを整理するために、まずERP導入の歴史的な流れを整理してみることにしよう。

レガシーリプレース 2000年〜

 欧米では企業の競争力を高めるために経営状況をリアルタイムに把握し、かつオープンに管理している状態を作り出すことが重要であるという認識からERPの導入が進んでいった。さらにグループ企業や取引先との俊敏性に優れたバリューチェーンを築くためのSCM(サプライチェーンマネジメント)もERPと同期して普及していった時代である。

 本来は日本もこうしたステップを踏むはずだったのだが、当時の日本では2000年問題への対処が叫ばれていた時期であった。そのためERPが2000年問題対策としてのシステム刷新手段として認識されてしまった上に、先にも述べたオフコン時代から続くベンダー依存体質のため、中堅中小企業は自社の業務を分析するだけの素地を持たないままERP導入に至った。

 こうした理由から日本でのERP導入は、オフコン時代の個別カスタム開発と同様に、ERPパッケージに大量の独自開発アドオンを組み込んで実装する形態となったのである。

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