GPLv3リリースから1年Trend Insight(2/2 ページ)

» 2008年07月03日 00時00分 公開
[Bruce-Byfield,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine
前のページへ 1|2       

もう1つの成功の尺度

 とはいえFSF(フリーソフトウェア財団)の上級ディレクターピーター・ブラウン氏に言わせれば、統計情報はライセンスの成功度を測る一基準にすぎない。ブラウン氏は「採用プロジェクト数には満足している」とした上で、ライセンスが成功していることのより重要な基準は「ライセンスがフリーソフトウェアユーザーを啓もうして、フリーソフトウェアのプロプライエタリ化を阻止できているかどうかということ」であり「その点については非常に満足している」と述べた。

 またブラウン氏は、保護という観点からGPLv3よりも脆弱なGPLv2がいまなお優勢であることについて、それほど気を揉むようなことはしていないとした。「GPLをやめようという動きがあるわけではない。どちらもある程度の違いはあれ同じGPLだ」。

 それよりもむしろ、議論期間と第3版は「フリーソフトウェアの発展についての議論を促した」とブラウン氏は考えている。FOSSコミュニティーの大部分に対して新ライセンスの文言についての助言を求めたことは、それまでのGPLにまつわる問題点について人々を啓もうして、GPLv3の策定にかかわり合いを持たせることに役立ったのだという。

 そのほかにもFSFは、第3版の利点についてのページを用意するなど、ライセンスについてユーザーを啓もうすることにかなりの努力を費やした。

 ブイ氏も、同氏の顧客企業が自社製品のライフサイクルを計画する際にGPLライセンスについての知識を活用しているのを目の当たりにして、そのような啓もうの効果が実感できるという。「FSFによる素晴らしい仕事の成果だと思う。GPLについて人々を啓もうして意識を高める、非常に優れた取り組みしている」。

 またブラウン氏は、訴訟が起こっていないということをGPLv3の成功の尺度の1つと考えて良いかもしれないとした。ただしリリース後1年ではまだ訴訟が起こるのに十分な期間を経たとはいえないかもしれないという点と、GPLv2についてもこれまでにそれほど数多くの訴訟があったわけではないという点も指摘した。とはいえ議論期間を設けたことによってライセンスの法的な文言が向上したことと、議論に参加した人々の数によって、訴訟を起こした場合に相手取ることになるコミュニティーがいかに大規模なのかを潜在的なライセンス違反者に対して示せたことが良かったとした。

 さらにもう1つの成功要因と考えられうる点として、技術の現状がライセンスに追いついてきたということもある。ライセンスのドラフトが作成されていた 2006年から2007年ごろには、ロックダウン技術はまだ登場し始めたばかりだったため、それらを阻止しようとするライセンスの文言は必要以上に急進的であるようにも受け取られていた。現在ではiPhoneのような例もあり、そのような条項はむしろ賢明なことだと考えられるようになってきている。

 ブラウン氏は次のように述べた。「重要なことは、われわれが生み出した変化がその役割を果たしているようだということであり、そのことにわれわれは満足しているということだ」。

今後の成功を測る尺度

 GPLv3がリリースされてから1年が経ったが、成功度を確定的に判断するのはまだ不可能だ。GPLv2がリリースされた1991年以来、フリーソフトウェアコミュニティーとその周りの様々な状況が劇的に変化しため、GPLv2の成功度と比較することは単純にはできないだろう。

 さらに、ライセンスが現在も未完成であるということもある。第3版での変更点の1つに、例外の取り扱いに関する変更(基本のGPLライセンスに細かい変更を加えるための特殊条項)がある。FSFのライセンス準拠エンジニアBrett・スミス氏は現在もコミュニティーと協力して、第3版の例外をより新しく改良されたものにする作業に取り組んでいる。スミス氏によると「GPLv3がリリースされた金曜日のすぐ次の月曜日から例外についての作業に取り組んでいる」とのことだ。1年経った今もスミス氏は大半の時間をこの作業に費やしているとのことだが、例外の有効性はライセンス自体の有効性を左右する大きな要因になるだろう。

 第3版が、ブラウン氏の表現を借りれば「フリーソフトウェアが将来的にもフリーソフトウェアであり続ける」ためにどれほどの働きをするのかが明らかになるまでには、まだ数年かかるだろう。ブラウン氏は、最大の試金石はAGPLがフリーなネットワークアプライアンスの作成と保護にどれだけ役立つことができるかどうかになるだろうと予測している。さらに、新たに見つかった抜け穴に対処するための第4版がいずれ必要になる可能性もないわけではないとした。

 今のところ成功したといえる根拠となり得る点はただ1つで、各種GPL第3版がコンスタントに採用され続けていて減少傾向にはないということだ。第3版の策定プロセスが始まった2006年当初には多くの人が予期したかもしれない、GPLv2に完全に置き換わるということは起こっていないかもしれないが、それでもBlack Duckの統計情報によれば、GPLv2とは別に数えても1年のうちにGPLv3は7番目に多く採用されているフリーなライセンスとなっている。

 ブラウン氏は次のように指摘した。「GPLv3はおそらく昨年新たに採用されたライセンスのうち最も多く採用されたライセンスだろう。これまでのところは目標を達成しているように思われる」。この普及率はほかのライセンスであれば大成功だといわれたことだろう。GPLv3の成功度が不十分だと感じることがあるとすれば、それはただただ、あまりに普及したGPLv2と比較した場合にのみだ。

 とは言っても、GPLv3の最終的な成功度や、GPLv2を駆逐するのか共存するのかについては、いまなお1年前とほぼ同じくらい定かではない。

Bruce Byfieldは、Linux.comに定期的に寄稿するコンピュータジャーナリスト。


前のページへ 1|2       

Copyright © 2010 OSDN Corporation, All Rights Reserved.

注目のテーマ