開発プラットフォームをオープン化することで、次々に登場するソーシャルアプリケーションと連携し、ユーザーニーズに応えようとする大手ソーシャルメディアは、さらなる進化に向けてアイデンティティとデータの可搬性にも取り組む。
「SNSを中心に、ソーシャルコンピューティングを提供する事業者がプラットフォームをオープン化し、他のサービスと連携して新たな価値を作り出すという方向に急速に変化しつつある」と語るのは、野村総合研究所の情報技術本部で技術調査部の主任研究員を務める亀津敦氏。
11月19日に東京・有楽町で開催された「NRI ITロードマップセミナー AUTUMN 2008」に登壇した同氏は、Web2.0の進化に伴って、商品レビューやニュース共有、動画や音楽、画像共有、ミニブログなど、膨大なソーシャルメディアやソーシャルアプリケーションが登場し、利用者はどれを選んで使えばいいのか混乱している状況を指摘。そんな中、機能の囲い込みからオープン化することで、利用を急増させた典型的な例がFacebookだと説明する。
Facebookは2007年5月に、サードパーティのソフトベンダーが作ったWebアプリケーションが利用できるようにするための開発プラットフォームのオープン化を発表。公開直後から数多くのFacebook向けアプリケーションが開発され、現在は3万7000を数えるまでになっている。
FacebookにアクセスすればSNS以外にもさまざまなアプリを利用できるとして人気となり、一気にトップのMySpaceに僅差で迫る業界第2位(1億900万ユニークユーザー、2008年5月時点)にまで登りつめた。
このことは、単に広告の出稿先でしかなかったSNSが、さまざまな企業がアプリケーションを開発・提供でき、かつ利用者がサービスを消費するWebサービスのプラットフォームへ変化したことを物語っている。
亀津氏は、「開発プラットフォームのオープン化によって、『Facebook経済圏』とも称されるほど業界に与えたインパクトは大きく、これ以後、ソーシャルメディアは囲い込みからオープン化へと急速に動き出した」と解説する。
中でも、最も対抗心を燃やしたのはGoogleだった。同社は2007年11月に、さまざまなSNS同士が共通してアプリケーションを開発する「Opensocial」構想を発表。現在のバージョン0.9の時点で既に50社以上のパートナーが賛同し、潜在的利用者は3億人以上といわれる。グループ内SNSのOrkut以外にも、MySpaceや日本のmixi、シリコンバレーのビジネスマンに不可欠なLinkedInのほか、エンタープライズ系のセールスフォースドットコムやオラクルなども参加し、幅広い企業にオープン化を進めるのが特徴だ。
ただ、双方ともメリット、デメリットを抱えている。Facebookプラットフォームは、Facebookのユーザー情報を取得して利用状況分析に活用できる半面、埋め込みには独自言語(FBML)の知識が必要で、リーチがFacebookユーザーに限定されてしまうことが課題だ。一方、Opensocialはリーチ可能なユーザーが約6億人と膨大で、コードの再利用が広く可能な上、JavaスクリプトやHTMLなどで記述できるので既存のアプリを移植しやすいが、ユーザー情報へのアクセスを限定しているため、効果が見えないという意見もある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.