米NetSuiteのネルソンCEO――「レガシーもSAPもすべてはクラウドへ」Interview

米NetSuiteのザック・ネルソンCEOに話を聞いた。技術の課題はエンジニアが克服するものであり、今後レガシーシステムを含めすべてのアプリケーションはクラウドで提供できると話す。

» 2008年12月09日 18時45分 公開
[聞き手:怒賀新也,ITmedia]

 ERPなど企業向けアプリケーションをSaaS(サービスとしてのソフトウェア)形式で提供する動きが加速してきた。クラウドコンピューティングへの関心も高い。だが、業務の安定運用を考えた場合にクラウドでは不安という声も聞こえてくる。「クラウドの行き先」について、米NetSuiteのザック・ネルソンCEOに話を聞いた。

「NetSuiteは導入企業のコスト削減に大きく役立つため、われわれにとって金融危機はそれほど影響しない」というネルソン氏。株価を見ると他社と同様にここにきて厳しい状況だ

ITmedia 12月9日に、日本向けのSaaS「NetSuite Release J」を発表しました。消費税や月次締めなど日本企業特有の要件に対応しており、日本市場重視の姿勢が見えました。

ネルソン氏 ダブルバイトへの対応は日本語版が初めてです。日本市場は規模が大きい上に、特に、レポーティングのやり方などが複雑です。日本で成功するモデルをつくってノウハウを吸収した上で、中国などアジア市場向けにサービスを展開する可能性を模索しています。

ITmedia NetSuiteはERPの機能全体を提供しています。一方、同業のSalesforce.comは、SFA(セールスフォースオートメーション)などCRMを中心にし、最近ではプラットフォーム(基盤)の提供に力を入れ始めています。サードパーティーなど第三者もアプリケーションを構築できるようにする方法です。実際には、同業他社への差別化をどう考えていますか。

ネルソン氏 われわれはERP機能の提供を重視しています。請求書や出荷など多くの人が使うデータがERPにはあるからです。ハイエンド市場でSAPが成功した理由はERPを提供していたからでしょう。例えるなら、Salesforce.comはハイエンドにおけるかつてのSiebelであり、NetSuiteはSAPという位置づけといえます。Salesforce.comについては何らかの形で一歩進む必要があると感じます。基盤戦略にシフトしているといわれますが、実際には昔ながらのSFAによる収益の割合が大きいからです。

 NetSuiteとしては、今後もアプリケーションの提供を続ける予定です。e-コマースを簡単に開始できるソフトウェアや、多国籍企業においてさまざまな環境をシングルインスタンスで管理できる機能なども提供しています。

 また、われわれも基盤戦略を進めています。パートナーによるアプリケーション提供を増やします。キーワードは業種別ソフトウェアです。というのも、流通や製造業などさまざまな業種1つ1つをNetSuiteが深く理解して製品の仕様に盛り込んでいくのは難しいからです。例えば、日系の製造業者であるクボタは、世界に散らばる同社のディーラー網をカバーするアプリケーションを構築する上で、NetSuiteの基盤を利用しています。

 具体的には基盤として「Suite Bundler」という仕組みを使います。Suite Bundlerは、ソフトウェアをカスタマイズする開発ソフト、SOAPを使ってレガシーシステムなどと連携する機能、JavaScriptを用いて使いやすいユーザーインタフェースを構築する機能の3層で構成しています。既存のアプリケーションをNetSuite用にカスタマイズする場合も、アプリケーション自身には手をつけなくていい仕組みにであるため、開発者の負担が小さくいのが利点です。

ITmedia クラウドコンピューティングが台頭しており、今後情報システム構築の方法やシステムインテグレーターやハードウェアベンダーにとっての事業環境が大きく変化するともいわれています。

ネルソン氏 最終的にソフトウェアはすべてクラウドの方向に向かうと考えています。レガシーシステムもSAPも、すべてがインターネットを介して利用するものにシフトするでしょう。この流れは間違いのないものといえます。(1990年代に)メインフレームからクライアントサーバへ移行したときよりも、インパクトは大きいと考えます。

ITmedia その際に、システムインテグレーターやリセラーなどNetSuiteのパートナー企業が利益を出すにはどうしたらいいですか。

ネルソン氏 これまでパートナーは、ソフトウェアのインストールやアップグレード、保守、システム刷新などの作業を実施することで儲けてきました。しかし、SaaSではそういった作業はアプリケーションを提供するベンダーがすべて実施します。その意味ではパートナーにとってビジネスが難しくなるのは事実といえます。だからといって、パートナー企業の仕事がなくなるわけではありません。1つのキーワードは業種特化型サービスの提供です。製造業やアパレルなど専門分野を持つパートナーへのユーザーニーズは高いでしょう。

ITmedia ライバルの1つとしてMicrosoftが挙がってきます。Microsoftは従来通りのソフトウェア利用とSaaSを組み合わせて「良いとこ取り」するSoftware+Serviceといった戦略を打ち出しています。Microsoftについてはどのように感じていますか。

ネルソン氏 (CRMや会計など)ビジネスアプリケーションの展開ではMicrosoftは出遅れています。Microsoftにとって重要なのはむしろOfficeでしょう。多くの人は、ExcelなどOffice製品を使うためにMicrosoft製OSが導入されたPCを持ち歩いているといっても過言ではありません。もしOfficeが今後ネット経由で提供されるなど違う形になると、Microsoftは従来競合したことがなかった企業と争うなど、新たな状況に放り込まれる可能性もあるでしょう。

ITmedia 今後より多くのアプリケーションがクラウド形式で提供されると考える場合、サービスレベル管理が難しいなどクラウドに技術面の問題はないでしょうか。

ネルソン 技術的な問題は過去に取り上げられてきました。SaaSが登場した当初は、使い勝手は通常のソフトウェアにはかなわないだろうとか、カスタマイズが難しいといった意見が多かったのです。しかし、今となってはカスタマイズは容易です。技術者がそうした障壁をクリアしてきたわけです。

 技術面に加えて、何よりもわれわれが強みを持つのはコスト効果の高さです。従来は高性能なインフラを持つ大企業しか使えなかったようなシステムを、月額1人13000円で利用できるのです。システムの保守やメンテナンスには通常膨大なコストがかかりますが、それも月額費用に含まれているのです。

 今後注目されるのは、さまざまなベンダーがクラウド上でアプリケーションを提供するようになった際に、その企業が信頼できるかどうかといった視点です。その点で、われわれは規模も大きくなり優位と考えています。

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