ICT産業の暗い未来伴大作の木漏れ日(1/2 ページ)

2009年に年が改まりました。ある人から経済見通しを聞かれました。僕のような、ICT専門の人間にまで経済の先行きを聞かなければならないとは相当追い込まれているなとちょっと同情してしまいました。

» 2009年01月19日 16時49分 公開
[伴大作(ICTジャーナリスト),ITmedia]

 2009年に年が改まりました。何度かこのコラムで、世界金融危機について書いてきましたが、先日もこの業界のある人から今年の経済見通しを聞かれました。僕のような、ICT専門の人間にまで経済の先行きを聞かなければならないとは相当追い込まれているなと、ちょっと同情してしまいました。そんなこんなで、僕自身の経済見通しを示したいと思います。

素朴な疑問

 今回の金融危機はどの程度われわれに影響を及ぼすのでしょう。素朴な疑問がわきます。この問いに関する回答はテレビに出演する経済学者や評論家、大学、研究機関などからいまだに出されていません。ただし、幾つかの指標が出てきました。主に米国の経済指標ですが、雇用、小売、自動車出荷台数などです。僕はその中で、自動車販売に注目しています。

 それによると、自動車販売台数では34年前、つまり、第一次石油ショック直後のころに戻ったそうです。当時の日本経済は大きな国家的プロジェクトであった大阪万博が終わったころでした。田中角栄氏が総理に就任し、日本列島改造論で景気を持ち直そうと躍起になっていたころです。

 僕の記憶では石油ショックの後、狂乱物価が日本を襲い、その結果、景気成長率は戦後始めてマイナスとなり、戦後の高度成長が終わりました。

石油ショック後の経済まで後退は可能か

 確かに似ています。しかし、当時と現在では大きな違いが幾つもあります。まず、日本国内の状況です。時の田中総理は、高速道路網の整備や、柏崎刈羽原子力発電所の着工などの公共工事を盛んにするなど対策を打てる余裕がありました。中国との国交回復も田中総理のお手柄ですが、海外貿易はその後、米国で繊維問題が起こりますが、当時、日本企業の海外進出はないに等しい状態でした。

 ちなみに1980年(昭和55年)の国民総生産(GDP)は約200兆円で、昨年の515兆円(名目)と単純に比較すると半分にも満たない額でした。

 その間、物価はざっと倍くらいになりました。(これには異論がさまざまあるでしょう。確かに公共料金や身の回りの物価はそれ以上です。しかし、耐久消費財はそれ程上がっていない。地価も土地バブル崩壊でそれ程上昇していない点を考えるとこのように考えます。)

 人口は当時既に1億人を突破していました。現在はざっと1億2000万人なので20%程度増加したことになります。果たして、日本経済は三十数年前の規模まで縮小することなどあるでしょうか。もちろん、結論としてはあり得ない話です。

賃金、物価、消費

 まず、民間の給与所得のレベルを大幅に引き下げないといけません。これには官庁の職員給与も例外ではありません。すべての給与、年金などを三十年前の水準まで引き下げることなど不可能です。しかし、実際問題として、円高が進行している実情を考えると、国際競争力を取り戻すまで賃金を下げなくてはならないということは、日本の産業が国際的に競争力を回復するのには不可欠です。昨年の今ごろドルは115円、ユーロは160円もしていたのに、近ごろは90円、115円前後と20%、30%程度高くなりました。日本の競争力を回復するには、少なくとも2割から3割の賃下げあるいは人員削減をしなくてはなりません。

 為替に換算される賃金を取り上げても、このような不吉な予想しか出来ないのに、経済全体を半分程度まで切り下げるのは、事実上不可能です。一方、物価は円高で全体的に下がるでしょう。その中で、こちらも日本独自である中間業者の整理は進むに違いありません。というのも、彼らは日本のきめ細やかな流通を支えてきた主役ではありますが、一方で流通コストが下がらない、流通過程における廃棄量の増大と複雑化の主因でもあったからです。日本経済の大きな部分を占めている公共サービス料金は、硬直化した官僚組織が支えているため、価格低下には至らないでしょう。

官需と輸出

 純粋な内需は、消費が低迷することが容易に想像され、家計支出はマイナスか良くて前年並み、官公庁セクターからの支出は公共投資の増額が期待されるため、若干プラスでしょう。もう一つ経済を支える柱である輸出は、日本経済全体に占める割合が2割程度ですが、大きく毀損するに違いありません。すべて壊滅するとは考えられなので、ここでは半減すると仮定する。そうなると、国民総生産への影響は全体の一割、50兆円程度と考えられます。

 こうして経済全体を見通すと、恐らく平均給与は少なくとも1割程度、物価も数%程度低下するというのが妥当なところでしょう。

 つまり、これはネットバブル崩壊後の不景気に戻るということを意味します。失われた十年の後、何とか成長路線に戻った日本経済が再び陥った今世紀の初めの2002年の不況状態に戻るということです。2002年の実質GDPが505兆円。おととしが561兆円でしたので、約一割程度日本経済が縮小すると考えないといけない。われわれは再び「バブル崩壊の悪夢」にうなされることになりそうです。

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