クラウドコンピューティングはSIerを「Service Integrator」にするアナリストの視点(2/3 ページ)

» 2009年01月20日 08時30分 公開
[岩上由高(ノークリサーチ),ITmedia]

「GUIを持たないSaaS」が中堅・中小企業に波及

 一方、SaaSは中堅・中小企業が成長をけん引していくとみられる。中でも、「GUI(グラフィカルユーザーインタフェース)を持たないSaaS」が成長の原動力となる。これまでSaaSの対象だったのは、グループウェアや電子メールなどGUIを持つWebアプリケーションだった。しかし、この種のアプリケーションでは、高機能で安価なパッケージソフトウェアが広く普及しており、自社内での運用負荷もそれほど高くない。ユーザー企業にとっては、わざわざSaaSに切り替えるための明確な理由が見いだしにくかった。

 こうした潮流の中、ウイルス/スパムチェック、データのバックアップ/アーカイビング、クライアントPCの管理といったシステムの運用管理全般の機能を持つSaaSが2008年以降に登場した。情報システムの管理担当者が不足しがちな中堅・中小企業ではこうした機能を管理する負担が大きいため、SaaSの活用は魅力的かつ現実的な選択肢になる。

 SaaSの対象はGUIを持ったWebアプリケーションから急速に広がっている。そして、SaaSを活用するための選択基準は、アプリケーション単位から業務単位に変化しているのである。

 中堅・中小企業におけるSaaSの活用が加速する要因として、昨今の経済不況も忘れてはならない。以下は、年商5億円以上〜500億円未満の中堅・中小企業の経営層に、今後のIT投資意向を尋ねた結果である。各項目の数値は「投資を増やす」という回答数割合から「投資を減らす」という回答数割合を減算した「投資意向DI」を表している。

投資対象の項目別の傾向 投資対象の項目別の傾向(出典:「2009年版 SaaS市場の実態と中期予測」ノークリサーチ)

 投資意向DIが軒並みマイナスとなる中、プラスを維持しているのがセキュリティとコンプライアンスの分野だ。これらの項目は企業の存続や信用の維持に直結するため、不況下でも投資をすべきという判断が働く傾向にある。そして、セキュリティやコンプライアンスの有効な対策手段の1つが、SaaSの活用なのである。

 例として、ウイルス/スパム対策を考えてみよう。自社でアプライアンスを運用するのも1つの手だが、初期投資が必要なことに加え、電子メールのトラフィックに応じた拡張も行う必要がある。ここでアンチウイルス/アンチスパムのSaaSを使えば、MXレコードを変更するだけで手軽に導入でき、トラフィックやパターンファイルの更新も気にしなくていい。

 コンプライアンスの観点で、社外に送付する受発注文書のログを管理する場合も同様だ。ログ管理システムを導入する方法もあるが、それなりの導入コストが掛かってしまう。そこでファイル転送のSaaSを使えば、第三者による監査証跡が実現する。自社内でログを管理するよりも、高い保全性を確保できるのだ。

 このように「社外の第三者に運用を任せる」というSaaSの特性が、セキュリティやコンプライアンスの分野ではプラスに働く。パッケージや自社運用型のシステム管理と同等の効果が得られるとすれば、企業が機能をサービスとして使うSaaSを選ぶ傾向が強まるのも当然といえよう。

 こうした背景から、中堅・中小企業におけるセキュリティ/コンプライアンス関連のニーズを中心とした、「GUIを持たないSaaS」がSaaS市場をけん引していくといえるだろう。

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