IBMのユーザー会「SHARE」が最近公表した調査結果によると、米国および全世界の景気後退の影響で企業はIT支出を抑制しているものの、仮想化技術の採用に向けた動きが広がっている。多くの企業が効率化とコスト削減の手段としてクラウドコンピューティングに関心を抱いていることも調査で明らかになった。
IBMの主要ユーザーグループが実施した調査によると、米国の景気後退という状況にもかかわらず、企業の間では仮想化技術への投資意欲が依然として強い。しかし、同技術を有効活用する方法をまだ模索中だという企業もあるようだ。
独立系ユーザーコミュニティーである「SHARE」は1月26日、調査結果を発表した。388人のITプロフェッショナルから回答を得たこの調査では、彼らの会社ではまだ仮想化技術の学習と理解に努めている段階であることが分かった。しかし多くの回答者は、仮想化が不可欠な戦略的技術になると考えている。
長期的な観点で見た場合、回答者はクラウドコンピューティングを有望な仮想化戦略として採用する方向に進んでいるようだ。
また、SHAREのメンバーは、クラウドコンピューティングに対する意見も求められた。
クラウドコンピューティングは、コンピューティングパワー、ストレージ、アプリケーションを1カ所のデータセンターに集約した上で、インターネットを通じてこれらをユーザーに提供するという方式だ。IT業界では、クラウドコンピューティングを「次の大物」とみる向きが多い。IBMは2008年末、他社のクラウドコンピューティングシステムの機能とセキュリティを評価するためのサービス「IBM Resilient Cloud Validation Services」をリリースした。Citrix、Microsoft、Googleなどの企業に続き、IBMもクラウドコンピューティングでビジネスチャンスを追求し始めたのだ。
現時点では、「社外のクラウドコンピューティングリソースを本格的に活用しているユーザー」はSHAREの調査の回答者のわずか2%程度であり、「一部のアプリケーションまたはシステムでクラウドコンピューティングリソースを利用している」のという回答は5%だった。
クラウドコンピューティングの普及レベルはまだ低いようだが、この調査結果は、特に中小企業の間でクラウドコンピューティングの普及が進む可能性が高いことを示している。
SHAREのジム・マイケル副会長はeWEEKの取材で、「特にコモディティ化したアプリケーションでは、大企業よりも中小企業の方がクラウドにアウトソーシングしやすい」と語っている。「クラウドコンピューティングに対する関心は高く、多くの企業が自社の戦略で同方式を採用し、そこから最大の成果を引き出すための計画を進めている」
今回の調査は、仮想化をめぐる状況、特に企業各社が同技術を戦略的に利用し始めているのかどうかという点にSHAREのメンバーらが関心を抱いたのを受け、2008年12月に開始された。
「個々の事例に関する情報が興味深かったので、きっちりとしたデータを集めたいと思ったのだ」とマイケル氏は説明する。「具体的なデータは事例情報を裏付けている――ほとんどの企業が仮想化に関心を持っているが、最大のチャレンジはスタッフのトレーニングと専門知識という問題だ」
事実、回答者の32%が、自社の仮想化に向けた最大のチャレンジは「専門知識/利用可能なスキルの欠如」だと感じている。また多くの企業は、総合的なIT戦略の一部として仮想化を全面的に受け入れているわけではない。仮想化の取り組みの多くは「分散的あるいは部分的」なものにとどまっていると調査報告書は記している。
しかし不景気で企業がITの運用コストと拡張コストを削減する必要性に迫られる中、各社は仮想化によってもたらされるITの柔軟性の改善というニーズに目を向け始めたようだ。
現時点で仮想化のためのIT予算を割り当てているとした回答者は29%にとどまったが、半数近くの回答者は、今後1年間で仮想化のための予算が増加すると予想している(減少する見込みだと答えたのは3%程度)。またこの調査では、仮想化というコンセプトを「よく知っている」業務マネジャーは約29%で、「ある程度知っている」は41%だった。
SHAREは現在、IT部門が効率化を促進する手段として仮想化とクラウドコンピューティングを推奨している。効率化という目標は、景気後退の時期にはとりわけ重要性を帯びるからだ。
「これらの企業がこの種の技術に対し、熟慮に基づいた戦略的な投資を行う可能性が高い。仮想化がバランスシートの改善につながることを示すことができるからだ」とマイケル氏は話す。「クラウドコンピューティングというコンセプトは、普及曲線における位置という意味では、仮想化をめぐる5年前の状況に似ているように思える」
「短期的にはクラウド/仮想化が爆発的に普及することはないかもしれないが、今後1年半〜3年の間に同技術の普及が加速し、一気に飛躍する可能性がある」(同氏)
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