遠ざかるスパコン世界一の座伴大作の木漏れ日(2/4 ページ)

» 2009年05月20日 15時30分 公開
[伴大作,ITmedia]

ユーザーとベンダーの強固なつながり

 スパコンといえばベクター型のNECを思い浮かべるのは僕だけだろうか。それほど同社のスパコン「SX」シリーズはよく知られている。しかし、日本には数多くの科学技術ユーザーがいる。彼らすべてがNECのユーザーではない。

 例えば、東京大学は日立製作所のスパコンを、京都大学は富士通のスパコンを導入している。国立の研究所でもJAXAは富士通、国立天文台は日立の製品を利用している。筑波大学、東京大学、京都大学が共同利用する目的で開発したT2Kオープンスパコンプロジェクトでも日立が担当した。

 また、日本ではベクター型の開発をNECが続けたが、その一方で、特定のアプリケーションに特化した「GRAPEプロジェクト」が1980年代から進められ、その高い性能は広く認められていた。何度もゴードン・ベル賞(並列計算技術推進のために設立された賞)を獲得している。GRAPEプロジェクトは、研究者を中心にベンダーが参加する形で進められてきたが、彼らの結束は強く、また、世界最高水準の計算機を自分達の力で築き上げてきたという自負は強い。

 つまり、一般人がスパコン=NECと考えているほど、実際の科学技術ユーザーはNECのSXにそれほど高い評価を与えていない。スパコンを利用する学者は自らが使っているマシンとそのベンダーを優先する傾向がある。次に導入する予定、あるいは開発中のシステムに関する打ち合わせを通し、ベンダーと強いきずなで結ばれているのが実態だ。

 今回、次期スパコンの契約主体となる理化学研究所の次世代スパコン開発でも、同研究所、東京大学を中心に擬似ベクター採用を図る動きがあったことはよく知られている。

 間違ってはならないことだが、このようにCMOS/スカラーをスパコンの心臓部に採用する動きは世界的に一般的な潮流で、ごく自然な成り行きだとも言える。その点で、ベクター部を担当するはずのNECが次第に孤立していったのは容易に理解できる。(昨年のISC ランキングトップ500の内、ベクター型はわずか一台だけ)

 確かに、ベクター型スパコンはどのようなアプリケーションでも可用性が高いのが長所だといわれている。実際、地球シミュレータの可動性の高さはよく知られている。

 一方、スカラー型スパコンはそれぞれのコンピュータが原則的に特定のアプリケーション処理に特化しているので、汎用性は低い。ただし、これに関しては、多くのスパコンがスカラー型に置き換わっている現在、主要な科学技術用のアプリケーションは最適化コンパイルを終了しているといわれている。

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