OSS開発、“はじめの一歩”で抑えておくべきポイントオープンソースソフトウェアの育て方(3/5 ページ)

» 2009年08月19日 14時05分 公開
[Karl Fogel, ]

炎上を阻止する

 プロジェクトを一般に公開したら、フォーラムにおける失礼な振る舞いや侮辱的な発言にはゼロトレランスで(情け容赦なく)対処しなければなりません。「ゼロトレランスで」とは、何か技術的に特別なことをしなければならないという意味ではありません。別の参加者を罵倒した参加者をメーリングリストから強制退会させる必要はありませんし、人を傷つけるようなコメントをしたからといってその人のコミット権をはく奪する必要もありません(理屈上は、結局のところそういった措置を取らざるを得ないことになるかもしれません。しかし、それはさまざまな対策がすべて失敗したときの最後の手段とすべきです。つまり、プロジェクトの開始当初にはそのようなことは起こりません)。ここで言うゼロトレランスとは、そんな振る舞いを決して見過ごさないということです。例えば、技術的なコメントと一緒にプロジェクトのほかの開発者に対する個人攻撃(ad hominem)を含むコメントが投稿されたとしましょう。そんな場合は、まずその個人攻撃に対する指摘をした上で、技術的な内容についてはそれとは分けて返答するようにしましょう。

 残念ながら、これは易しいことではありません。そして、たいていは建設的な議論が不毛な罵倒合戦に陥ってしまいます。人は、面と向かっては決して言えないことでもメールでは平気で言ってしまうものです。また、議論の内容もこの傾向に拍車をかけます。技術的な問題に関して、多くの人は「ほとんどの質問には正解が1つしかない」と考えがちです。そしてその答えに同意しない人のことを無知で愚かな人だと思ってしまうのです。誰かの技術的な提案を否定すると、その人自身の人格を否定したように受け取られることもあります。実際、技術的な議論が人格攻撃に切り替わる瞬間を見極めるのは非常に難しいものです。厳しめの返答や処罰がいい考えではない1つの理由がここにあります。その代わりに、少し雰囲気が怪しくなってきたなと感じたら、議論を友好的に進めるように促す投稿をするようにしましょう。その際に、特定の人物が意図的にそんなことをしているように非難することは避けなければいけません。しかし、そのような“町のおまわりさん”的な投稿は、時として園児をしつける幼稚園の先生のように見えてしまう傾向があります。

 まずにひとこと。個人攻撃につながる(あるいはその恐れのある)コメントは控えてください。例えば、Jが設計したセキュリティ層について“コンピュータのセキュリティにかんする基礎知識に欠ける無能な設計だ”と語るようなことです。それが正しいかどうかは別にして、これは議論の進め方としては間違っています。Jは信念を持ってこの提案をしたわけです。もし問題があるならその問題を指摘しましょう。そして皆でそれを修正するか、新しく設計をやりなおせばいいじゃないですか。Mは決してJを個人攻撃するつもりがないことは知っています。でも、その言い方はちょっとまずかった。もっと建設的な議論を進めましょう。

 さて、提案内容に話を戻しましょう。わたしは、Mの言うことはもっともだと思います……

 ちょっと堅苦しく感じるかもしれませんが、これはかなりの効果があります。何かあれば必ず口を出すが、決して攻撃側に謝罪を要求したり落ち度を認めさせたりしない。そうではなく、そのまま放っておいて次回はより穏やかに振る舞うように促すのです。そうすれば彼らはきっとそれに従ってくれます。これをうまく行う秘訣の1つは、どっちが悪いかとかどうすべきかといったメタ議論を主題にしないことです。そうではなく、本題に入る前の前置き程度の扱いにしておくべきです。「ここではそんな振る舞いはやめてください」と指摘した後はすぐに本題に移ります。そうすることで、相手側にも本題に返答する機会を与えることができるのです。

 もしそれでも「あなたに非難されるいわれはない」といったことを言われたら、もうそれ以上その話題を引きずるのはやめましょう。単にその話題に関する返信をやめておく(単に彼らは自分の主張を振りかざしているだけであり、返事を求めているわけではなさそうな場合)か、あるいは「出すぎたまねをしてしまってごめんなさい。メールではなかなかニュアンスが伝わりにくいので」と謝った上で本題に戻ればいいのです。不適切な振る舞いをした人たちの主張は、公開の場であるか否かにかかわらず決して認めないでください。もしかれらの方から謝罪があれば素晴らしいことですが、こちらから謝罪を要求しても相手をさらに怒らせるだけでしょう。

 最終的な目標は、その集団に「礼儀をわきまえる」空気を作り上げることです。これは、プロジェクトにとって大きな助けとなります。なぜなら、開発者が(自分が好んでサポートしようとしている)プロジェクトで罵倒合戦に巻き込まれる心配がなくなるからです。そんなことが原因で開発者候補がプロジェクトが離れていることに、あなたは気づかないかもしれません。誰かがメーリングリストにひっそり参加してそのプロジェクトの状況を観察し、参加するための障壁が厚いことが分かり、結局参加することをあきらめることがあるかもしれません。フォーラムを友好的な雰囲気にしておくことが、長期的に生き残るための作戦として有効です。また、これはプロジェクトが小さいうちから心がけておいた方が実現しやすいことです。いちどそんな文化ができあがってしまえば、あなたひとりがいちいちそれを主張して回る必要もなくなるでしょう。皆がそういうふうに持って行ってくれるからです。

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