世界で勝つ 強い日本企業のつくり方

大前研一の辛口ニッポン応援談(後編)世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(3/5 ページ)

» 2009年11月16日 10時00分 公開
[構成:怒賀新也,ITmedia]

 韓国方式はかつての成長期の日本と同じで、とにかく勉強させる。学校へ行って塾へ行って、さらに家でも毎日6時間勉強する。午前2時に寝て6時に起きるのが今の韓国の受験生だ。一流大学入試の際に既にTOEIC 900点という、スーパースパルタ教育。疲れ切って大学に入ってくるけど、韓国で本当に良い会社といったらSamsung、Hyundai、LG、Boscoの4社、その次に約30社くらいのチェボル(財閥)しかないから、そこで気を緩めるわけにもいかない。

 大学でも死に物狂いで勉強しないとそういう企業には入れない。日本のように入ってもいいと思う会社が1000社位あるのとは状況が違う。今、世界的なグローバル企業に入ってみれば分かるが、日本人は韓国人に出世競争で負けている。もちろんインド人や北欧の人々の足元にも及ばない。スポーツ競技なら記録が出るが、企業では余り表に出てこないのが同じ釜の飯を食ったときの実力の差だ。残念ながら日本人の実力は世界の大半の国に負けるような水準になってしまった、ということだ。

 天才でなければ勉強するしかないんだ。大量生産時代の日本は製品の品質も良かったし、いろんな面でレベルはめちゃくちゃ高かった。ところが今の日本の子どもたちは、家で勉強している時間が1時間半もない。韓国方式で戦おうと思っても、この子たちを家で6時間勉強するように持って行くのは大変だろう。まず無理だ。

 デンマーク、フィンランドはその対極で、詰め込み教育をしない。考えることだけを教える。学校の授業では答えを教えず、みんなで「何が正しいか」を議論して、自分なりのやり方を発表して議論した結果、一番良い意見をいう人に従ってやっていくという方法。夏休みなども2カ月以上、家族と一緒に森で生活したりする。家族を、コミュニティーライフを、自然との調和を、大事にするんだね。

 こうした教育が深い思考とリーダーシップ、イマジネーションやイノベーションといった力を育む。自然の中で集団生活していると自ずとリーダーが必要になるからね。年長児は自然に下の子の面倒をみるようになるし。

 その結果が、国際的な試験で上位という形に表れる。彼らは世界のどこに出ていってもリーダーが務まる。ヨーロッパ大陸の最大の石油会社、Royal Dutch Shellの会長は、フィンランド人のヨルマ・オリラ、NokiaのCEOだ。BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)も次期会長(就任は2010年1月1日)はEricsonのCEOカールヘンリック・スバンベリだ。それぐらい経営能力が突出している。彼らは英語も幼稚園からやっているし、すぐれた指導力、思考力の深さやユニークさでは北欧は傑出している。

 デンマークなんて「先生」という言葉自体がないからね。教室で先生を使うことが禁止されている。「Teacher」というと「teach」するものがある、それは答えがあることが前提だからというわけだ。世の中の問題は答えのないことが多い、答えのないものに答えを見つけるのが人生そのもの。

 こういう教育だから、Teacherというのは百害あって一利なしだということになる。答えを教えたら子どもたちは考えなくなる。答えのない世界にどうやって考えるのか、答えをどうやって見つけ出させるのかが教育の基本なんだな。だから社会に出たときに強い。全部自分で考える癖がついているから。

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